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編集部コラム KEIRIN ON MY MIND
特集 2025.04.16

編集部コラム KEIRIN ON MY MIND

競輪場までの道を歩きながら、こう考えた。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」(夏目漱石『草枕』)。知性、感情、考えのバランスをとって生きていくのは難しいってことなのかな。考えた場所は本物と違うけど。けっして智に働いているわけじゃない。知性のひけらかしと言わないでほしい。

このフレーズが浮かんだのには訳がある。4月初めの高知記念で野田源一を見ていたからなんだ。野田は秋田から福岡にだいぶ前に移籍したまくり選手で、81期の46歳。

一時は追い込みに回った時期もあったけど、思うところがあったのだろう。誰にもマークせず、ラインのしばりなく、自身の勝利のために走るスタイルを選んだ。後ろに誰がつこうがやることは一緒。ぶれずにそれをやり続けた結果、周りも彼のスタイルを認めたし、どんなレースでも、野田のまくりに期待しているファンは多い。住みにくいとされる人の世。競輪はラインがあるからなおさらだけど、こんなやり方で生きていく方法もあると教えてくれる。そういえば、『草枕』にも「源さん」が登場するんだけど、何かの縁かな。な訳ないだろ。

野田は高知記念で3日目に中を割って1着に突き抜けたが、最終日にまたしても落車している。昨年8月の平塚オールスターで大ケガをして、今年1月に復帰。やっと成績も上向きになってきたというのに…。復活を祈ってます。

 

桜の散るころは案外と考え深くなったりするもんだ、などと思いながら競輪場に到着。今日は武雄記念の最終日だな。場内のラーメン店に直行すると、常連のトミさんがいた。野田源一のことを話したら、競走スタイルはまったく違うけど、小倉竜二の話を返してきた。

3月末の前橋GⅢの決勝で準優勝して、この武雄記念を走っている。差し脚が鋭い徳島のマーク屋で、77期の49歳。競輪を愛するファンに絶大な人気を誇る「おぐりゅー」(ファン的にこう呼ぶのが正しい?)。2センターで前の自力選手をガードするブロック、ゴール前で滑るように伸びてくるハンドル投げが超有名。

俺はこの選手がボソッとこぼすコメントが大好き。あの吉岡稔真の番手でGⅠのタイトルを獲ったことから、よく吉岡ラインを固めていた。コメントで「吉岡さんの3番手」と言いながら、「レースでは9番手やけど」とひと言付け加える。この意味がわかるファンは競輪歴が長い。けっして大笑いじゃないけど、センスと切れ味がきらりと光る。

状態を落としていたが、ここへきてまた成績を上げてきた。この武雄記念でも準決勝こそ7着だったが、初日、2日目はレースの軸になっていた。トミさんいわく、食事を改良して、体重を落とし、トレーニングに励んでいるとのこと。

それならちょっと買ってみようか。7Rは小倉の①から100円ずつ流して25点買い。結果?最後の4コーナーで小倉は突っ込もうとしたコースが塞がれ、外に持ち出したが届かず2着。神奈川の嶋津拓弥が勝って、⑨①⑤で1万90円。ちなみに①⑨⑤なら1万320円だった。未練だなと笑わば笑え。いいとこ狙ってんだけどな。小倉みたいなベテランが意志を感じる動きでしっかり走ってくれると、レースが締まる。そういうレースが多くみたいんだ。

最後にひと言。「棹させば」というのは前へ進むという意味。邪魔するとか盾突くことだと思っていたのは俺だけだろうか。還暦を過ぎてから、このことがわかって、桜色に頬が染まったっていうのはいいオチかな。な訳ないだろ。

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