雪は降るは、やけに暑い日があるは。どうなってるんだ、今年の弥生3月は。こう見えても春は好きなんだけど、4月になったら、一気に夏まで行っちゃいそうで怖い。「花冷え」なんて、日本にはいい言葉があるのに…。
大垣、四日市のGⅢ2本立ても今日が最終日。1日くらい顔を出すかってことで、昼過ぎに競輪場到着。もちろんラーメン店へ直行。日曜日の1時半くらいなのに店には誰もいないや。構わず席につくと、厨房から店主のマサさんが出てきた。なんか浮かない顔だな。どうしたの?と聞いたら、その訳を話してくれた。
「今日、チャーシューメンを食べたお客さんから、チャーシューが冷たいから、スープがぬるくなっちゃうよって言われてさ。ここ何日か別のお客さんから同じこと言われたんだよ」。
この店主は一見、車券の合間にラーメンを作ってるように見えるけど、案外とラーメン作りには一生懸命なところがある。意外とは失礼だな、ごめん。
「一人でやってる店だし、タイミングが悪いとそうなっちゃう。ここんところ続いたんで、気持ちが晴れないんだよね」と苦笑い。また厨房へ引き上げた。
おいおい、今日は車券の話はなしかなんて思っていたら、常連のトミさんがやってきた。お互い右手を挙げるだけのあいさつ。そして厨房を指差しながら、「ぬるいチャーシューメンのこと言ってた?」。うん、と応じると、「木曜日に聞かされてさ、あちこち聞いて回ったんだよ」と言い終わるやいなや、トミさんはニヤリと笑って、厨房へ向かって叫んだ。
「マサさ~ん、チャーシューを炙ったらいいじゃない!」。マサさんが顔だけ出して、「ラーメン作るたびにそんなことできないよ」と言って、すぐに顔を引っ込める。
「違うよ。チャーシューメンだけだよ。ただのラーメンはチャーシュー1枚だけだから、スープに押し込めば、そんなに影響ないよ」。5秒間の沈黙のあと、「そうか」の声だけが聞こえて、店の方へやってきた。
「トミさんに教えられるとは思わなかった」とにんまり。
炙りチャーシューメン!新メニュー誕生の瞬間か。いい場面に出くわしたな。まあ段取りとか、味の研究とかはこれから考えなきゃなんないけど、マサさんの顔に5分前の暗さはもうない。人間って、へんてこな生き物だよ、まったく。
するとトミさんが、今度はこちらを向いた。この顔つきは車券の話だとピンときた。
「ブロンズコレクターが今回走ってるんだよ」。こちらが首をかしげると、福田滉だよと教えてくれた。福田は3着のスペシャリストなんだと、ちょっと自慢気なトミさん。
気づいたのは3月初めの宇都宮。2日目と最終日に3着だったときで、なんか3着が多くないかと思って、成績をさかのぼってみたらしい。12月の松山から22走して、3着がなんと11回。半分は3着だった。しかも予選は7回走って、5回3着だから、これは本物のブロンズコレクターだと確信したとか。さすがに陸上のマリーン・オッティ、競馬のナイスネイチャの知名度にははるか及ばないけどね。ラインの3番手を固めることが多いのもあるんだけど、なんとか3着には突っ込んでくる。見ていてワクワクするとか。トミさん、やっぱり貴方は変態だね。
福田は栃木の追い込み選手で、115期の25歳。祖父母や父親を始め、叔父や従姉にも選手がいて、福田一族から9人の競輪選手を輩出しているのは有名な話だ。7車立てばかりなら、どうかなと思ったけど、9車立ての記念でも3着がちゃんとある。昨年11月の松阪では2回、今年の大宮で1回。今回の大垣GⅢも初日は関東ラインの3番手を固めて、きっちり3着。シリーズで3着2回というのも福田あるあるだとトミさんがつけ加えてくれた。
今回の大垣は3日目まで3着、8着、2着ときている。勝つ選手を当てるのが車券の王道だろうけど、こういう買い方だってある。
よしってことで、8レースは福田を3着に流してみた。勝ったのは田尾駿介で、2着が嵯峨昇喜郎、3着は大塚玲。3連単は⑦⑤③で8160円。福田は7着だった。上がりタイムは一番出ていたけどね。最後の4コーナーで絡んで、コースに入るのが遅れた。車券は撃沈したけど、ワクワクドキドキは確かに味わえたよ。ありがとうトミさん。
この日はその後も車券はまったくだったけど、楽しみがひとつできた。それは桜の花が咲くころ、このラーメン店に「炙りチャーシューメン」のメニューが加わること。