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編集部コラム KEIRIN ON MY MIND
特集 2024.04.17

編集部コラム KEIRIN ON MY MIND

高知記念の場外発売は買わなくてよかった。この競輪場は1周500mだけど、案外と逃げて連に絡むし、まくりが決まらないし、4コーナーから中を割って伸びてくるし、独特のバンク。でも今回は決まらないはずのまくり追い込みが届くシーンもあるから、切ることができずにけっこうやられている。

ナイターの奈良競輪のために、まずは腹ごしらえ。豚肉の力を借りようと、チャーシューメンを食べる気満々でラーメン屋に顔を出した。常連のタナカ君が大きめの紙に、おなじみのマジックインキで何か書いている。それを見ているのは店主のマサさん。2人とも真剣そうだったから近づきすぎずに黙って見ていた。終わって、声をかけたら、その紙を見せてくれた。

「お知らせ/チャーシューメンについて/豚肉肩ロースの価格高騰のため4月20日よりバラ肉のチャーシューのみの提供となります/旧-肩ロース2枚、バラ肉3枚/新-バラ肉5枚/店主」

豚とか高騰の騰とか、画数が多い字は大きくなって、アンバランス?シュール?それより、えっ4月19日でおしまいか。あと1週間じゃない。

「うちで使っている肩ロースの価格が、ここ3年でほとんど倍になっているんよ」。餌代が上がって、食肉の価格が上がっているけど、肩ロースが一番影響を受けているのか。理由はわからないけど、マサさんが数字をしっかり見ている経営者だったのはわかった。「一般的に豚肉はロースかヒレなんだけど、俺、肩ロースが大好きで、その旨さを知ってもらいたくて、その部位のチャーシューを作ってきたんだけど…。頑張ったけど、もう無理なんだよね」。競輪のバカっぱなしばかりしているだけじゃないんだ、この店主。志を持ってラーメン作っていたのか。あと1週間、肩ロースのチャーシューを心して食べさせてもらうよ。

そこへ仲間うちで「婦人」と呼ばれている女性が登場。ナイター競輪専門で、競輪をしてから店に出勤のパターン。婦人が手を挙げながら近づいてきて、その張り紙を見ると、「この紙、もう1枚ちょうだい」とマサさんに言う。ゆっくり座って、やおら自分のバッグから筆ペンを取り出した。へぇー、心づけ用に持ってるんだ。10秒間、元の紙を見てから、スラスラと書き出した。達筆!書き終えて何食わぬ顔なのもお見事。「うわ、すごいな。ありがとう婦人、チャーシューメンおごるよ」とマサさん。さっそく店の入口付近に貼って、厨房に消えた。

苦笑いが引きつっているタナカ君に婦人が声をかけた。「佐世保ナイターありがとう」。どういうこと? 「タナカ君が教えてくれた選手とマークした選手を狙って、準決勝こそトントンだったけど、予選と、最終日の特選は1点勝負で取らせてもらったの」。

彼が佐世保で推したのは大分のA級1班、利根正明。34歳の先行選手だ。前受けから引いて、カマすかまくるかが主戦法。この出ていくときのスピードが前々回の小倉でもよくて、準決勝は打鐘過ぎ3コーナーから仕掛けて、本命の九州勢を完封。3連単は5万円越え。佐世保の準決勝も93点持っている室井蓮太朗をたたいてしまった。番手の選手がさばかれて、室井が番手にはまったので5着に沈んだが、内容は百点。元々、予選はほぼ連対していて、準決勝でシード選手と真っ向勝負して、前に出られるか出られないかがカギになる選手。ここ2回は出切っている。

次は今月17日~19日の松山競輪の昼開催に出走予定。しかもガールズがあるFⅠ。利根は勝ち上がりに失敗すると、肩ロースチャーシュー最後の日は午前中に走ることになってしまうことも。これは間に合うように来るっきゃないな。昼食はもちろんチャーシューメン。ナイター専門で、陽の光には弱そうな婦人だが、「決勝に乗ってほしいけど、もしそうなったら、私も19日は利根のレースに間に合うように来るわ」ときっぱり。一瞬だけど、藤純子、いやっ江波杏子に見えた。

ちなみにタナカ君が自分で書いた貼り紙を丸めて持って帰ろうとすると、マサさんが取り上げて、店内にそれを貼った。「字に味がある」とひと言。今日はこの店主の数少ないいいところを何個か見せられちゃったな。

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