「二刀流」で頂点目指す〝オオタサン〟
メジャーリーグの〝オオタニサン〟こと、大谷翔平選手によって一般語となった「二刀流」。野球では投手と打者の双方をこなす選手を指すが、こと輪界では、「競輪」と「自転車競技」を並行して取り組む選手を言うことが多い(競輪と俳優業、競輪とプロレスなどの例もあるが)。パリ五輪を翌年に控えた現在、自転車競技のナショナルチームにおいて、トラック短距離のエースにのし上がろうとしているのが太田だ。今年1月の国際大会「ケンブリッジGP」(ニュージーランド)で出場全4種目に優勝。勢い十分で臨んだ「ネーションズカップ」は2月の第1戦・ジャカルタ(インドネシア)でスプリント銀メダル、チームスプリントで日本記録を更新して4位。3月の第2戦・カイロ(エジプト)ではケイリン、スプリント、チームスプリントでそれぞれ銅メダルを獲得。一気に世界のトップクラスに名乗りを上げた。
パリ五輪代表へ視界が一気に開けた太田だが、競輪でも一足飛びの成長を続けている。海外遠征がひと段落した3月の玉野記念。地元GⅢ初参戦とあって、嫌でも気合が入るところ。だが、世界を見据える大物は目指すところがひと味違う。「ネーションズカップでは、自分の力が付いていることを証明できた。それは自信になったが、今回は決勝まで進んで、競輪への注目度を変えたい」とぶち上げた。記念初出走だった昨年12月の高松は、初日に落車して勝ち上がりの権利を失ったが、残り3日を1、2、1着。玉野では初日から1、2、3着で決勝に進み、結果は逃げて9着だったものの、見事に有言実行を果たした。
玉野から中6日で迎えた高知記念。S班5人が集結し、壮絶バトルの様相に。太田は準決勝まで進み、打鐘先行で新田祐大(福島)、平原康多(埼玉)らに立ち向かったが、春の強風を受けて失速。決勝進出はならなかった。それでも最終日は8番手からのロングまくりで前団を一蹴。白星で締めくくった。「流れに乗ってすかさず仕掛けるつもりが、タイミングを間違った。前の日にできたことが、次の日できなかったり…一進一退ですね。準決勝は自転車のスピードと、ペダリングを無視してしまった感じ。カーボンのフレームなら、それでも力任せでいけるんだけど、その感覚で踏んでしまった。(競輪用の)鉄のフレームは奥が深い」と、反省も口にする。慣れない9車立て、滅多に走らない500バンクと割り引く点もあるが、デビューしてまだ1年4か月ということも忘れてはならない。本人は「次に生かしたい」と前向きだ。
玉野記念決勝で連係した中国地区のエース・松浦悠士は太田を評して言う。「アドバイスをしっかり聞くし、とにかく素直。吸収力が高くて、伸びしろも大きい」。自転車のキャリアもまだ数年だが、気の早い周囲は「パリ五輪でメダルを」と騒ぐ。もちろん、太田の耳にもそれは入っているだろう。「自分ももちろん五輪を目指してやっているが、おそらくチャレンジはパリの一回だけになると思う。競輪ではもともと何もできないところからS級に上がって、自転車もまだ手探りの状態。それだけに自分ももっともっといけると思うし、いろんな気付きも出てきた」。冷静に立ち位置を確認しつつ、自分の可能性に胸を膨らませる。今後も「二刀流」は続くが、〝オオタサン〟が世界を驚かせる日はそう遠くない。