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中野浩一氏インタビュー
解説&分析 2022.05.25

中野浩一氏インタビュー

競輪界の重鎮・中野浩一氏に今回は121期の早期卒業の中野慎詞、太田海也の二人はどうだったのかと、これから本格的デビューする121期、122期について競走への希望、走り方、考え方などインタビューしました。

中野慎詞
太田海也

「中野慎詞とか太田海也が早期卒業して、もう勝つのが当たり前みたいな、力の違いがあるところから出発しているわけで、以前から俺はデビューして強いって言われている選手には言っていたんだけど、言い方は悪いかもしれないけど、例えばずっとチャレンジで走っている人と走ったら、もうこの人たちとは上に上がってしまえばもう二度と一緒に走ることはない、だから自分の勝つ競走をすればいい。


 最近の選手は先行できたからいいって言う選手が結構いるんだけど、先行しても負けたら意味がない。だから先行でも捲りでも追い込みでもなんでもいいからとにかく勝たなければならないと思うよ。レースってこういう形ですればいいんだっていうのを感じながらね。それを上に上がるにつれてだんだん相手が強くなっていくのを実感しながら、なにが足りないのかとか、どうしたらいいのかっていうことに考えが巡るようにしないといけないと俺は思う。

だから中野慎詞には、後ろのことは気にしなくていいから自分の自信のあるところから行きなさいといったよ。特に今は7車立てだから、9車だと紛れることがあるし、他の選手が捲って前が牽制したときに後ろから行くとあおりをもらって意外と止まったりだとか、下手すれば落車に巻き込まれるということもある。だからちょっと難しさはあるけれど、7車で前を見て、後ろに一人二人ついているんだから、悪くとも6番手、まあ普通だったら5番手くらい。そしたら前にいるのは4人しかいない。4人ずっと見て走れば、残り1周でどーんと行っても、勝てるだろうからそれを考えて走りなさいとは言ったんだけど。結果的には結構長い距離を踏んだりして、まあ相手が弱いから全然問題なく押し切っているけど、あれが上位になるとさすがにああいう競走をして持つかどうかっていうのは、これからだね。だからそこらへんを自分がどうこれから練習に生かしていくかっていうのは重要なことなんだけど。


俺はいつも言っているけど、出る杭は打たれるけど出過ぎた杭は打たれないから、出過ぎた杭になれって。本人は『出過ぎた杭になれるように頑張ります』って(笑)」


─中野慎詞はチャレンジの時とA級1、2班に上がってからでは随分競走が変わりました。チャレンジの時は結構後ろを連れてくるようなレースをやっていましたが、A級1、2班になってからは連れて行くんですけどぶっちぎれるというような感じで。何が違ったのと聞いたらA級チャレンジ戦はどこで緩むのか分からなかったと。普通だと行かせても緩んだところを行くって先輩に教わったけど、その緩んでいるのか緩んでいないのかがわからないと言っていました。


「うん、要するにスピードの感覚が違うから。だから俺が言っているのは、自分で1周なら1周って決めて、それだけもがけばいい、練習と一緒だと。その位置が何番手でも、自分がいる位置によってどこから行くか決めておけばいい。相手に合わせる必要はないと。特にチャレンジのときは相手関係なく4コーナーから1周もがきの練習を毎日しなさいと。そうすれば自然と勝てるはずだと。後ろ見ないでね。まあA級1、2班でもそういうところはあると思う。それこそ1周のタイムトライアルをやるくらいのつもりで走ればいい。で、毎回自己ベストを目指して走ると。そうすれば自然と勝てる。それだけの力の差はある」


121期の卒業記念レース

─これからまたルーキーが本格デビューしてきますが、そこに向けて中野さんからのアドバイスはありますか?


「このあいだ卒業記念をやったときに、彼らは卒業したあとだったので、レーサーパンツもちゃんとA級のパンツを穿いて走ってるんだよね。唯一違ったのはあのとき車券を売っていないということだけなんだけど、そのパンツを穿いてもうプロとして走るんだから、本来どうやってこのメンバーで勝つかってことを考えて走らなくちゃいけない。それでも赤板過ぎからすっとんで行って、バックでは後ろのほうにいる奴がいる。これはおかしいだろうと。まるっきり勝とうとしていない。それではお客さんは納得しない。
 競走訓練の中で試すのはいい。自分の力がこのメンバーでどのくらいの力があるのか、最初から行って持つのか、持たないから4コーナーから行ったら持つのか、逆に本当は2コーナーくらいで行きたいんだけど、それだと先頭に出られないからホームから仕掛ける、それでも出られないから4コーナーから仕掛ける。それがだんだん早くならないと自分が先頭に立つことができないというならば早く出る必要はあると。それを試しながら何が足りないかっていうのを少しずつ練習で補っていって、本来自分の勝ち方としてはどうなんだっていうことを学ぶべき所が養成所だから、それは構わない。だけど実戦になったらそうはいかないよね。お客さんが自分たちを対象に車券を買っていると。だから何があってもゴールまであきらめてはいけないし、チャンスのある走り方をしないといけない。
 組まれた番組の中で、このメンバーの中で自分はどういう力関係に位置しているのか。逃げても無駄ならば無理やり逃げる必要はない。位置が取れるならしっかり位置を取って、追い込みでも構わないから1着を取る競走をしないといけない。だから勝ち方に新人らしくないとかいうのは関係ない。
 よく言われる、レースで力をつけるっていうのもなくはない。追い込みばっかりやっていると強くならないというふうによく言う人がいるけれど、昔の追い込み選手って先行選手よりも練習をたくさんやっていたんだよ。これはやらないと脚を使ったあとに追い込みにいけないとかっていうのがあるから、そこを自覚して練習をしっかりやってくればそれはどんな形でも構わないと。そのための練習だから。実戦は練習じゃないから。本番なんだから、やっぱりそこを意識して走ってほしいなというのが一番だね」


─昔の追い込みの方々というのは仮に前で走ってもすごく強かったですよね。

「たまたま何気に先行になってもそれなりに先行で持っていたりね。追い込みだからと思って先行できないかというと、先行できるような練習をやっていた、昔の追い込み選手はね。だから競って競って競っても、最後まで抜きに来るみたいな。今はもうちょっと競ったら、前駆けられたらもうついていくのがいっぱいみたいな選手が多いじゃない」


─やっぱりそれはギア比の問題とかもありますか?

「それは当然踏みなおしができるとか、やっぱりギアかかっているからそこで力を使ってしまえばもう残っていないとかっていうのはあると思う。だからレースの戦法によってはギアを変える必要も俺はあると思う。みんな一緒っていうのは変な話だし。そこで自分の脚質にあったギアとか、そういうのはチョイスしなきゃいけないっていう。今でも伊藤正樹(愛知・71期)が3.54で1着取るからね。練習ギアで走ったほうが速いんだったら練習ギアで走ればいいじゃないかと。要は人より速く走れば勝てるんだから。あとは人が邪魔になったりとかしたときにどういうコース取りをするとか、最終的にダッシュしたときにどの位置にいるとかっていうのを考えながら走るのが競輪で。今の選手がラインだからって言って前に任せっきりで、前についていくだけだから何でもいいって言うのもいるかもしれないけど、まあ自分で自分の力で勝とうとすればそこを考えなきゃいけない。みんながそう考えると実はレースがものすごく面白くなるはずなんだけどね」


─それを推理するのが競輪だったはずなのに…。

「そう。本来はそう。その推理の要素をなくしちゃったから。この選手はいったいどうするだろう、普段の競走を見ていれば強引に競って位置取ってからの勝負だろうなとか、この選手は普段競れないからどこかで一発狙って追い上げたりかましたりするのかなっていうふうに、それをお客さんが考えて実際選手がレースで何をするかっていうのが一つの楽しみでもあったんだけど、今はそこが抜けている。展開がこうなって持つのか、後ろが行っちゃうのかっていう、もうそれだけの話だもの。もう一つは、主導権を取るって3人言っているけど、本当は誰が取るのかなあっていうのを当てるかどうかっていう」

─ギャンブルとして単純化しすぎたっていう。

「そういうのはあると思う。だからそうではなくて、難しいけれど面白い競輪っていうのを本来はやってほしいよね。細切れだから難しいって今言うけど、結局固定観念があるからそうなってしまう。選手もそうなったときに自分がどうやって走っていいか分からない、誰かの後ろを走るのが当たり前みたいな。一人でも何かしろよ、という話だよね。
 単騎って言ったのなら、単騎らしい走り方をすればいいし。まあ地区的なもので単騎っていうことが結構今はあるんで、まあ一人になっても1着取るためにはどうするか、何をするかっていうことをやっぱりしっかり考えて走ってほしいな。
 これがルーキーシリーズとかやると、全員がほぼ単騎で走るじゃない。全員自力って言っているわけだから。だからその中で養成所のときと同じような競走をするのか、養成所のときはそれこそめちゃめちゃ先行するっていう印象をつけといたやつが、先行するふりをして、うまく位置を取って走るとか。そうすると他のやつが戸惑ってしまうとかっていうのも、1着取ればどういう走り方をしても構わない。そこらへんをやっぱり若い子たちに教えなきゃいけないのだけどね」


122期の卒業記念レース

─ガールズに対してはいかがですか。
「まあ以前に比べたらガールズは全体的にレベルが上がってきたなという感はあるね。
 勝負しても自分で逃げても勝てないから誰かを目標にしてみたいな競走が増えたのは間違いないね。ただ、明らかに最初から並ぶような競走がね、あれがちょっとね。
 見ていたら、上がってきたら、はいどうぞって入れるじゃない。そういうのがね。これは競走だから自然とそうはなっていくのよ。であればそれならそれで、私は追い込みみたいな、普段からそういう競走をしている、毎回同じような競走すれば問題ないと思うけれど、昨日はカマしたけど、今日はついただけとかっていろんなことをやると、それこそ予想できなくなってしまう。やっぱりがっつり競りはできないけど、できれば誰かの後ろから回って、それから行きたいんだっていう意思表示は毎回しなければいけない。だから後ろにいて、本命といわれる強い選手の後ろまで上がっておいて、前が仕掛けるのを待つとかね。毎回同じような競走をしていれば、ああ、この子はこういうタイプなんだなと。うまくついていったときは2着はあるけど、浮いてしまえばないなとかね、そこから先はお客さんの判断だから。そういうのがはっきりするとレースとしても、見るほうも予想のし甲斐もある。単なる力だけで決まってしまっても、それはまたつまらないし、競輪らしくないからね。だから本来のガールズからすると、まあ競りがないので、そういうふうになりがち、力だけで決まりがちっていうのはあるけど。少しでも競輪らしさみたいなところがね。身体が当たっちゃいけないから、そのまま踏み出しで勝てばいいわけで。そういう練習をすればいいよね。
 今は特に先頭誘導員に対するルールとか厳しくなっているから、並走してもまっすぐ走れる技術が必要だと思う。内外帯線間を走っているやつと外帯線の外でちゃんとそのまま走るやつと。あとはペース上がっての並走と、ゆっくりのやつと。やっぱり実戦に即した練習はやらなくちゃいけないと思う。
 エンジンは確かに磨かなきゃいけないから脚力はしっかりつけて、ただその使い道ね。
 やっぱりパワーがあって、いくらスピードがあったって、上手に使わないと生きてこないから。レースでどう生かすかということをやっぱり考えないといけないし。それに対するトレーニングのやり方とかも養成所でしっかり教える必要があるよね。まっすぐ走ればかりじゃなくて。並走訓練とかやるのはいいと思うけどね。」

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