災害時に役立つ蓄電可能な自転車発電
中村浩士選手と原田亮太選手が訪問
今回紹介するのは、東京都市大学理工学部機械工学科の崔埈豪(チェ・ジュンホ)教授が行う「自転車を使った発電システムの研究」です。
崔教授の研究室がある世田谷キャンパスに、千葉の中村浩士選手と原田亮太選手の師弟が訪問し、研究についてお話を伺いました。
崔教授はもともとトライボロジーという摩擦や潤滑などを専門に研究しており、その中に摩擦のエネルギーで電気を作る、「摩擦発電」という分野があります。
身近な例をあげると、下敷きで髪をこすると髪が持ち上がりますが、この時、下敷きにマイナス電荷がたまり、髪にプラス電荷がたまる。そこを回路で繋ぐと電子が流れ、電気になるという仕組みです。その量というのはマイクロワット、ミリワットくらいの非常に小さいエネルギーだそうですが、それを使っていろいろなセンサーを駆動したりもできるのだといいます。
崔教授はその発電技術を災害時に役立てられないかと考えました。
「日本は地震であったり、自然災害が多い。マイクロワット、ミリワットではなくもっと大きな電力で発電すれば災害の時に役に立つのではないかと。そこから今回の研究が始まりました」
崔教授が今回の研究で「摩擦発電」の材料として選んだのが自転車と、トレーニングやウオーミングアップなどで使うローラー台でした。自転車を選んだ理由は「各家庭に2台以上あることが多く、身近にあるものを活用できるのは非常にメリットが大きい」からとのこと。
システム自体は、発電機を繋げたローラー台で自転車を漕ぐことにより、発電機が回って発電するというシンプルなもので、さらにその発電した電気を蓄電する装置の実装を目指しています。
中村選手も原田選手も普段の練習ではローラーに一日2~3時間くらい乗るそうで、仮に一般の方が今回のシステムで同程度の時間で乗った場合、どのくらいの電力になるのか崔教授にお聞きすると…
「自転車一台だとたぶん今のセッティングでは数百ワットくらいかと思います。数百ワットあればスマートフォンだとかパソコンだとかの電子機器は使えるかと。1000ワット以上必要なエアコンなどは、やはり並列化(複数の自転車で一度に発電する)をしないとちょっと難しいですね」
これを聞いた原田選手は「みんなでやれば出せそうな数字ではあるかな。自分もパワーメーターとかでワット数を見ると700ワットくらいずっと出ているので、それを全部発電に回せばってことですよね」
ちなみに競輪選手は一般的な成人より3~5倍の発電能力があると考えられているそうで、少人数でも大きな電力を生み出せる可能性があります。
また、このシステムでは負荷を重くすると発電量が大きくなりますが、これに中村選手は「選手は負荷が欲しいので、負荷を電力に換えられるなら、選手にとってはトレーニングとしてもよりいいものにしながら、電気もたくさん作れるというわけですね」と、選手ならではの発想で笑顔を見せていました。
現在の研究の進捗状況や課題、実用化に向けての見通しなど崔教授に教えていただきました。
「現段階で発電機の種類を選んだり、その発電機を制御するための制御回路の問題などいろいろありますが、それをどうコンパクト化して各家庭に置いておくか。それと、一台ではなく何台かの自転車を並列化して発電すれば、より大きな電力を必要とする家電製品なども動かせるので、その並列化の課題もまだ残っているかなというところです」
このシステムが実用化できれば、活用の方向性は多岐にわたると思いますが、どこの家庭にもある身近な自転車を使うことから、災害時には大いに役立つのではないでしょうか。さらに蓄電できることで、非常時用に備えておくことも可能です。
「自転車発電」の試みは、これまでも聞いたことや見たことがあるという方もいらっしゃると思いますが、この研究が実を結び、自転車で電気を作ることがごく当たり前の未来が、近いうちに訪れるかもしれません。
最後に中村選手と原田選手に今回の取材を終えての感想を伺いました。
中村浩士選手
「競輪の補助事業が自転車を使った発電の研究に活かされているのは嬉しいですね。自分たちは速く走るために自転車に乗ってトレーニングしているわけですけど、それを電力に換えて有効活用できることを知れたのはよかったです。自転車を漕いで作った電気を蓄電して使えるなんて、地球にもやさしいですよね。こんなに簡単なシステムで発電できるなら、ぜひ実用化して災害復興などに活用されることを切に願います」
原田亮太選手
「もっと大がかりな装置で、もっと微々たる電力しかできないのかなと思っていたんですけど、今回のあの装置で結構な量が発電できるんだなと。あの装置が何台もあって、競輪選手が一斉に乗ればかなりの電力を賄えるのかなと思いました。被災地支援という形でも、競輪選手は日本全国にいますから、お役に立てるのであればみんな協力しますし、そうやってうまく僕たちを使ってくれたらこちらにとっても輝ける場ができるのかなと感じました」
今回の取材の模様は、競輪とオートレースの補助事業を紹介するWEBサイト『CYCLE-JKA Social Action』に動画と記事で詳しく掲載されます。
ぜひそちらも併せてご覧ください!