9月のMVP
青森競輪9月15~18日「第39回共同通信社杯」18日・決勝11R
深谷知広(静岡・96期)
テクニックを体得して新境地を開拓
9年ぶりのビッグ制覇を遂げたレースは、静岡同士で普段から練習を共にする渡邉雄太に託したマーク戦。打鐘から勢いよく飛びだした渡邉に続くと、ここからは手際のいい運びでガードした。単騎で飛んで来た新山響平を出すも、続く嘉永泰斗は許さない。1センターで一度弾き、嘉永が外でへばり付くや2角でもう一撃見舞い完全に仕留めたプレーはまるで追込選手のような身のこなしだった。
これまでの深谷と言えば、郡司浩平や渡邉と連係した際も頑なに前回りだった。しかし、今年からは人の後ろを回るレースが増えている。レース後の共同会見などではしきりに「番手回りも勉強」と「もっとテクニックを磨かないと」と課題を口にしており明らかな意識の変化が見て取れた。練習仲間や後輩に聞くところによると、自力を磨くだけではなく、普段から番手回りのための練習を多く取り入れているとのこと。
まだまだ自力で戦っても力強いが、加えて追い込みとしての技術が身に付けば戦法は更に広がる。輪界屈指のスピードスターが、オールラウンダーとして更なる高みを目指している。
9月のベストレース
浦山一栄(東京・72期)51歳 A3
佐世保競輪9月24日「A級シリーズナイター」準決勝3R
テクニックを語り伝える先行職人
浦山一栄と言えば若かりし頃からド先行で売っていたガッツマン。51歳となった今もなお衰え知らずで、ラインの先頭役を嬉々として務めている。チャレンジ戦では初日から新人とあてられるケースが多く「ジジイにはムリ!」とよくボヤいているが、レースとなると途端に力がみなぎり各地で暴れ回っている。
準決3Rは赤板から突っ張る気が満々だった123期の新人、佐藤壮志が浦山を警戒していたが、わずかな隙を逃さず力一杯に切りに行った。「100%、切るつもりだった。佐藤君が俺をみた後に誘導を見てバックを踏んだでしょ。あの時点で勝ったと思った」と、してやったり。レースを見ていた周囲の選手たちからは「さすが浦山さん」と感嘆の声が上がった。
出切った後はベタっと流して佐藤待ち。佐藤マークの森山昌昭が離れるや佐藤の番手を確保した。「もう、あれしかなかった。森山には悪いけどちぎれ待ち。ただ、佐藤君は余裕がありそうだったし、抜きにいく脚は無かった」と決勝進出を決めた。レース後、佐藤に「先行が誘導を見たらダメ。前と後ろを意識した時点でこっちは出切れると思ったから」と種明かし。
実は佐藤は初日に似たような展開で浦山を突っ張ることができなかった。「誘導を見ると〝早期追い抜き″が頭をよぎり、怖いと思って少しバックを踏んでしまう。そんな緩んだところを目掛けてこられた。あの切り方に対し、自分の踏み方も甘かった」と佐藤は苦笑いを浮かべながらも「流していた分、最後は余裕があったんです」と浦山に返した。すると浦山は「おお、わかるわかるよ。オレも若い頃はそうだったから。だから、もう抜けねえなと思ったし確実に2着と思ってさ(最後まで踏んだ)」と涼しい顔。佐藤は「自分の父親と同じぐらいの人に2日連続同じことをやられてしまった。すべて浦山さんの策略通りでした…」と、浦山の掌で転がされ悔しがっていた。
そんな同じ道を突き進む若手に浦山はとことん優しい。「構える人は構えてオレを駆けさせるけど、ちゃんと来た。あれがあったからオレも踏んだし前々にいられた。いいレースだったよ。でも早期追い抜きは気を付けなよ。オレ、何人も見て来たから」と先人の教えを説き、フォローを忘れなかった。
先行テクニックはいわゆる見て学び、実践を重ねて行く職人芸のようなもの。浦山がレース後、地区問わずに‶同士〟たちに懸命にアドバイスをしている姿をよく見かける。大師匠の金言は脈々と後輩たちに受け継がれていく。