今月のMVP 太田海也(24)岡山121期 S級2班
8月は西武園GⅠ「第66回オールスター競輪」の1開催のみ。直前までイギリス・グラスゴーで行われた「2023年UCI自転車世界選手権大会トラック」に出場しており、調整不足のまま挑んだ大会だった。前検日には「時差ボケが心配」と話していたが「競輪用のフレームに乗って練習をしてきました!」とガールズ選手を含めた世界選帰りの面々がケアを中心に務めた中、競輪への準備に勤しんでいたという。
その努力は実を結び、連日激しく逃げに逃げて5走中、4回の確定板行きで3勝を挙げた。
山田庸平に差されて2着だった1走目の一次予選1は赤板からの押さえ先行で、しかもタテ脚が快調な山田が番手だったから致し方なしと言ったところ。
それだけに2、1、1着と勝ち上がり挑んだ準決勝4着は非常にもったいなかった。「(準決は吉田拓矢さんに)出られてしまい失敗。(初手を含めて)思っていた展開と違っていたので頭の中を切り替えられなかったです。もっと戦法があれば良かった」と経験不足を露呈した。ただ、相手は新山響平に吉田とS級屈指の自力選手たち。この先を戦う上で、自分の今の実力を知れたのは大きな経験となったはずだ。最終日の特別優秀戦は仕掛けを正して逃げ切り勝ち。「準決の反省もあって誰も出さないつもりでした。ペース配分も良かったし落ち着いて駆けられた」としてやったり。同じ反省を繰り返さなかった。
この先はナショナルチームの活動を優先するため、競輪に登場する機会は限られそうだが初のGⅠでこれだけやれるところを見せ付けた。これから先、もっともっとパワーアップをしていく太田の台頭が楽しみだ。
●ベストレース 別府競輪8月15~17日「S級シリーズ」小岩大介(大分・90期)
ガッツマーカーがプライドを示した一戦
小岩にとっては入魂の地元戦。裏では西武園でGⅠ「第66回オールスター競輪」が行われており、メンバーはやや小粒の感があったとはいえ、ここでの点数上位。シリーズリーダーとしての責任も背負っていた。
ところが、初日特選は尾形鉄馬が「阿部将大の番手へジカ」とコメントをしたことで混とんとなった。もちろん阿部は地元の後輩であり番手は小岩の指定席。内心穏やかではなかったはずだが、尾形も前々へさばくレースで名前を売っているファイターで決意は固い。小岩は当然、受けて立ったがレースは小岩が6着、尾形が7着と痛み分けに終わった。だが、競りそのものは小岩が尾形を丁寧にいなして2角で決着を付けた。
戦うからには上位着を目指す事はもちろん大事だが、マーク屋にとっては内容や体裁を保ったかも大事なポイントとなる。もし変な負け方をしたり、切なく離れたりしようものなら自力選手との信頼関係にも影響するし、この先ライバルのマーク選手に攻め込まれるなど大きなスキとなるからだ。代表格と言える存在に大分の小野俊之、大塚健一郎がおり、脈々と流れるマーク屋の血は小岩にも受け継がれている。
決勝は九州地区に目標が不在だったため、今度は小岩が動いた。大川剛―尾形と並ぶ北日本コンビを相手に「大川君の番手へジカ」と主張したのだ。初日に地元分断の奥の手を打った尾形への意趣返しにも見えたが、小岩としてはマーク屋の本分である〝強い先行選手の番手を狙う〟を実行したまでだった。
尾形も負けてはいられなかったが、ここは小岩の執念勝ち。最終ホームで外競りの小岩が番手を奪い、2センターでは太田龍希のまくりを好ブロック。さらに直線では中村浩士の中割りを阻み2着に食い下がった。大川を交して優勝、が最高の形だったがマーク屋の存在意義は示した。競輪選手のなかで飛び交うフレーズ〝地元割増〟を体現した充実のシリーズだった。