先週の月曜日。用事があって外に出たついでに夜、ナイターの場外発売をしている競輪場へ。ラーメン店に顔を出したら、常連のタナカくんと、仲間うちで婦人と呼ばれている女性が同じテーブルに座っていた。ほかにお客はいない。2人とも味噌ラーメンをすすってら。
厨房から出てきた店主のマサさんに、「俺も味噌ラーメン」と注文。「寒い日は味噌ラーメンがよく出ますねえ。ラーメン屋はお客の注文で天候がわかるのだ」。えんじ色のTシャツの上に黒のTシャツの重ね着。この人の場合、店ではいつも半袖姿。「あんたのかっこじゃ、天候はわからないもんね」と、婦人から突っ込まれると、「でもさ、味噌ラーメンは鉄鍋を振るわなくちゃいけないから、できればラーメン、チャーシューメンだけ注文ほしい」と返す。すかさず婦人が「こら!」と笑いながら一喝。
マサさんが厨房に戻ろうとしたときに、タナカくんがこう切り出した。「渡部遥が復活の気配ですよ」。マサさんが立ち止まり、俺も婦人もタナカくんを見る。競輪ファンはこういう話が大好物。
渡部遥はガールズの選手で愛媛の122期。2022年5月デビューの23歳だ。先行、まくりで戦う自力選手で、いきなり6月の大宮で優勝したけど、その後は1年以上苦しんだ。ところが2023年11月の前橋で2度目の優勝を飾ってからは35場所連続で決勝に進み、1回だけ勝ち上がりに失敗して、また10場所続けて決勝進出。でも今年の3月くらいからは決勝にこそ乗っていたけど、物足りない内容。そして7月からは予選で確定板にも挙がれなくなり、決勝進出から遠ざかっていた。一時、この店でも渡部がよくないねえという話は出ていたな。
タナカくんが渡部に復活の手応えを感じたのは、今月8日からのいわき平ミッドナイトの予選2。打鐘4コーナーからカマして、ピッタリつけた大久保花梨には番手まくりを打たれたけど、ほかの選手の追撃はしのいで2着に粘った。直線の長いバンクだけに価値があるレースっぷり。9場所ぶりの決勝は5着だったけど、これは要チェックだなと。
「次は中3日で、15日からの松阪ミッドナイトを走りますよ。競輪祭に出場する上位陣が参加しないから、順調にきていれば、この3日間、勝ち負けできるんじゃないですか。今ならまだ配当はいいですよ」。最後のこういうセリフに弱いんだ。頬が緩んだのをすぐに自分で気づいて、表情を作り直す俺。情けない。
■11月15日 午後8時40分
自宅のリビングに一人でいる俺。松阪ミッドナイト1Rガールズ予選1。⑥渡部から1着、2着。128期の①北岡マリアと②千葉捺美、それに③比嘉真梨代、④内野艶和を絡めて、⑥-①②③④-①②③④、①②-⑥-①②③④、①②-①②③④-⑥。3連単を100円ずつ、計2400円購入。
スタートしてすぐに落車があって再発走。打鐘2センターから仕掛けた⑥渡部に逃げ切れ、逃げ切れと念じたのに3着。切り替えた①北岡が1着で、マークした④内野が2着。3連単は①④⑥で3690円。本命が1着だからつかないか。1490円の浮き。だけど俺の表情は浮かない。喜ばないとツキが逃げるぞは競輪の教訓。ぎこちなく少し頬を緩める
■11月16日 午後9時
もちろん一人でリビング。今日は2Rガールズ予選2の5番車が渡部。①西脇美唯奈が抜けているけど、②千葉捺美、③内野艶和、④北津留千羽も絡めた3連単を購入。⑤-①②③④-①②③④は100円、①-⑤-②③④、①-②③④-⑤は200円ずつ。
予定通り⑤渡部が先行して、2コーナーから①西脇がまくり上げ、⑤渡部の番手にはまった③内野もまくっていく。3人が壮絶にモガき合って消耗し、2センターから踏み上げた⑥橋本のこが大外を伸びて1着。2着は①西脇で、3着に④北津留千羽が入って、3連単はなんと⑥①④で33万2250円。これは無理だわ。④渡部は悔しい4着。
■11月17日 午後8時40分
3日連続でリビングに一人。渡部は決勝進出ならずで1Rのガールズ一般戦5車立て。④渡部から100円ずつ1着、2着で総流し。①千葉捺美がよくないので絞れなかった。
レースは④渡部と同期の⑤浜地晴帆が果敢に先行して、これを④渡部がまくっていく展開。俺が頑張れ頑張れと念じたのが効いて、最後の最後によくやく浜地を捕まえて1着。内を突いた①千葉が2着失格で、2着が⑤浜地、3着は大外を伸びた③藤巻絵里佳。3連単は➃⑤③で9520円。よしよし。難を言えば、総流しで取った車券だってことだな。お恥ずかしい。

当たっても、外れても、一人の選手を応援して、自分自身の祈りから放たれるうめき声、スマホの実況音と小さな画面。そこにお金が投入されている。お金が増えることもあるし、0になることもある。初老のおやじが毎夜、一人で競輪中継をスマホで見入っている姿は、滑稽でも物悲しくもないぞ!そう心の中で叫ぶ、晩秋の夜。