神山雄一郎の冠大会となった宇都宮記念。場外売りだけど、もちろん顔は出しますよ。神山で思い出すのは号泣の優勝者インタビュー。てっきり1993年7月のふるさとダービー函館のときだと記憶していたんだけど、その年8月の地元・宇都宮でのオールスターだったみたい。俺の記憶なんてこんなもの。
後輩の吉岡稔真に追い抜かれて、けっこう初タイトルまで時間がかかった思いが爆発。こっちもこみ上げたもん。今はレジェンドと言われているけど、鳴り物入りで1988年にデビューしてから、実戦の競輪でけっこう苦労していたし、GⅠで何でもないところで落車してたたかれたりしたから。
てなことで昼下がり、いつものようにラーメン店へ。
うん? 店の前に張り紙が。
「本日は炙りチャーシューメンを休止させていただきます。ご了承ください 店主」
あれれ、4月半ばに誕生したばかりのメニューなのに…。さては人気爆発? 店内にいた店主のマサさんに、笑いながら、張り紙を指さすと、こちらの思いを察したようで、「違う、違う。ゴールデンウィークで肉の仕入れができなかったから」と手を振った。
もうちょっと経営に頭を回した方がいいんじゃないかって小言を言おうとしたら、マサさんが打ち消すように、「ケイリンアドバンスって始まったじゃない」と切り出した。
4月から始まった、国際競技「ケイリン」のインターナショナルルールによるケイリン。ライン戦ではない、ブロックとかがない個人で戦う、ガールズケイリンの男子選手版。
「自転車競技って、風圧との戦いだから、ロードレースもそうだけど、チーム戦が面白いと思っていたんだ。でもアドバンスで何かつかんだんじゃないかと思える選手を見つけたんだよ」
さすがはラーメンより競輪? のマサさん。
「大阪の中井勇介なんだけどさ」。
中井は43歳で100期の自力選手。現在のランクはA級2班。アメリカンフットボールの元日本代表からの転身で、かなり話題を集めた。9年前に千葉から大阪に移籍している。
4月高知のアドバンスでは3着、2着で勝ち上がって、決勝は単騎で前受けから逃がされて6着。奈良の補充出走を挟んで、迎えた玉野。
予選は5番手から11秒5でまくり上げ、準決勝は4番手から11秒6の追い込みを決めて連勝。昨年11月の名古屋以来の決勝進出を決めた。決勝は後方にいて、ブーメランをして5番手。今度は早めにカマしていった。最後は番手を回っていた同郷の菊谷信一に1/8車輪差されて準優勝だったが、上がりは11秒7。
「打鐘前から先行して、逃げ切るかと思えば、逆にいいところがなかったりだったけど、玉野は今までの中井と全然違ってたの。自分の力が一番発揮できるように走ってた。個人競走のアドバンスで何かをつかんだとみたよ。元々気持ちが乗ったときは強い選手だから」
マサさんは自信ありげだ。
アメリカンフットボール時代のポジションはラインバック。高い身体能力と、オフェンスに対する頭脳やリーダーシップが要求される、ディフェンスチームの要だ。実際、中井の身体は資料によると身長180センチ、体重95キロ、胸囲は102センチ。そこから生み出されるパワーとスピードはどれほどのものだろう。
次は6月4日からの防府に出走予定。
もちろん競輪は力関係や展開が占める割合が多く、さらにメンタルが重要だけど、あの玉野での走りを見たら、期待したくなっちゃう。
あっそうそう、第1回レジェンド神山雄一郎杯・宇都宮記念はというと、嘉永泰斗、小原太樹、阿部拓真を1着、2着にして、3着は全通り購入。展開に恵まれた小原が勝って、さばいた阿部が2着。3着は地元の坂井洋。
払い戻しが5万5千円になった。駅前の一杯飲み屋なら、一夜限りのレジェンドになれるかな。