11月3日~4日の2日間にわたり、いわき平競輪場で高校生の自転車競技大会『競輪甲子園2024』が開催されました。サイクルスポーツの次世代を担う若い世代の育成・発掘を目的に、いわき市(いわき市産業振興部公営競技事務所)の主催で新たに誕生した大会です。
競技方式は全選手が200mフライングタイムトライアル(以下200mFTT)、1kmタイムトライアル(以下1kmTT)、ケイリンの3種目を走り、各種目1位から8位までに与えられるポイントの得点合計により総合順位が決まるというもので、これまでにないユニークなスタイルの大会となっています。
プログラムは1日目の午前中に200mFTTと1kmTTを計測し、午後からケイリンの予選と敗者復活戦。2日目にケイリン1/2決勝(準決勝)、7-12位決定戦、決勝戦が行われます。
初開催となる今回は青森、宮城、山形、福島、東京、千葉、山梨、新潟から集まった総勢14校・32名の高校生が参加し、熱戦が繰り広げられました。
開会式には地元の競輪選手を代表して新田祐大選手が激励に訪れました。また、須永優太選手、鈴木豪選手、平根優大選手、平山優太選手(2日目のみ)はケイリンの誘導員として今大会に参加。
まずは大会実行委員長を務める、いわき平競輪場の木村丈二所長が挨拶の言葉を述べました。
「今回は第1回目の『競輪甲子園』ということで、東日本地区の8都県から30名を超える選手にお集まりいただきました。本当にありがとうございます。会場の皆さんも、遠くからお越しいただきありがとうございます。初めての大会を最後まで温かく見守っていただければと思います」
新田選手からは出場する選手たちに激励の言葉が贈られました。
「記念すべき第1回大会ということで、皆さんも気合が入っていることと思います。今まで練習してきた成果を思う存分発揮できるよう頑張ってください」
さらに新田選手には高校生たちからの質問タイムも。「養成所の試験に向けて取り組んだほうがいい練習」や「クロモリフレームの選び方」、「練習後の食事の摂り方」などたくさんの質問が寄せられ、新田選手は一つ一つ丁寧にアドバイスをおくり、高校生たちも真剣な表情で聞き入っていました。
選手宣誓は地元の福島県立平工業高等学校の髙橋星那選手が務めました。
開会式が終了し、いよいよレースが始まります。
■200mFTT結果
1位 石井颯真(福島県立平工業高等学校・1年) 11秒597
2位 渡邉玄冬(米沢中央高等学校・3年) 11秒889
3位 比嘉大翔(山梨県立笛吹高等学校・2年) 12秒057
4位 宮嵜博己(千葉県立白井高等学校・2年) 12秒116
5位 髙橋星那(福島県立平工業高等学校・2年) 12秒180
6位 緑川怜依(福島県立白川実業高等学校・2年) 12秒215
7位 水谷悠平(新潟県立吉田高等高校・2年) 12秒229
8位 伊藤忠正(千葉県立京葉工業高等学校・2年) 12秒294
まずは1種目目の200mFTTからスタート。タイムトライアル種目に関してはギヤ比が49×15(ケイリンは49×14)、ドロップハンドルのみなどのルールが設けられています。
なお、得点は全種目共通で1位9点、2位7点、3位6点、4位5点、5位4点、6位3点、7位2点、8位1点となります。
(写真9)キャプション:1kmTT。唯一の1分10秒台をマークした水谷悠平選手
■1kmTT結果
1位 水谷悠平(新潟県立吉田高等高校・2年) 1分10秒280
2位 緑川怜依(福島県立白川実業高等学校・2年) 1分12秒101
3位 渡邉玄冬(米沢中央高等学校・3年) 1分12秒284
4位 髙橋星那(福島県立平工業高等学校・2年) 1分12秒669
5位 宮嵜博己(千葉県立白井高等学校・2年) 1分12秒684
6位 伊藤忠正(千葉県立京葉工業高等学校・2年) 1分12秒734
7位 大内大地(南光学園東北高等学校・1年) 1分12秒927
8位 前田基(山梨県立甲府工業高等学校・2年) 1分12秒367
2種目目の1kmTTを終え、総合の暫定トップは渡邉玄冬選手の13点。水谷悠平選手が11点、緑川怜依選手が10点で追いかけます。勝負は最終種目のケイリンへ!
■ケイリン結果
1位 水谷悠平(新潟県立吉田高等高校・2年) 予選1・準決1
2位 緑川怜依(福島県立白川実業高等学校・2年) 予選1・準決1
3位 橋本大希(福島県立白川実業高等学校・2年) 予選3・敗復1・準決3
4位 前田基(山梨県立甲府工業高等学校・2年) 予選1・準決2
5位 伊藤忠正(千葉県立京葉工業高等学校・2年) 予選1・準決3
6位 翁長賢希(都立総合工科高等学校・2年) 予選4・敗復1・準決2
7位 髙橋星那(福島県立平工業高等学校・2年) 予選2・敗復1・準決5
8位 久慈彪翔(青森県立八戸工業高等学校・3年) 予選2・敗復1・準決6
ケイリン決勝のゴールを制したのは、最終バックから抜け出し、そのまま押し切った水谷悠平選手。これにより総合結果は水谷選手が優勝、2位緑川選手、3位渡邉選手となりました。
■最終総合順位
1位 水谷悠平(新潟県立吉田高等高校・2年) 20点
2位 緑川怜依(福島県立白川実業高等学校・2年) 17点
3位 渡邉玄冬(米沢中央高等学校・3年) 13点
4位 髙橋星那(福島県立平工業高等学校・2年) 11点
5位 宮嵜博己(千葉県立白井高等学校・2年) 9 点
6位 石井颯真(福島県立平工業高等学校・1年) 9点
7位 伊藤忠正(千葉県立京葉工業高等学校・2年) 8点
8位 前田基(山梨県立甲府工業高等学校・2年) 6点
記念すべき第1回大会で見事優勝を飾った水谷選手に気持ちを聞きました。
「総合優勝できてすごく嬉しいです。ハロンは苦手なので、1kmTTで1位を獲れたのが大きなポイントだったかなと思います。ケイリンは予選から前のほうの番手でのレースが多かったのですが、後ろから来る選手を見ながらちゃんと考えて走ることができたので、それがよかったと思います」
『競輪甲子園』は3種目の総合成績で順位が決まるという珍しい形の大会ですが、そのあたりを水谷選手に聞くと、3種目全てを走る1日目がかなり大変だったようで、「普段の大会で、一日でこんなに走ることはないのですごくきつかったです」と笑っていました。
地元選手として選手宣誓を行い、総合4位に入った髙橋星那選手にも大会の感想を聞きました。
「いつもはもっと重いギヤを使っているので、今回のギヤ比ではうまく調整しきれず、あまりいいタイムは出せませんでした。やっぱり普段から軽いギヤでも練習しておかないといけないなと思いました。今回の大会ではいろいろな選手と交流を深めることもできましたし、来年3月の選抜大会に向け、他県の選手の実力を知るいい機会にもなりました」
今回、新たな試みとして開催された『競輪甲子園2024』。誕生の経緯や大会への思いなど、改めていわき平競輪場の木村丈二所長に伺いました。
将来的な競輪界の発展を見据え、次世代を担う高校生の競技大会を企画したと木村所長は話します。
「少子化で競輪選手になる人が少なくなってきている現状を見ても、将来に繋ぐ若い選手を養成していかなければなりません。本来、競輪業界全体が一丸となってやる必要があるとは思いますが、どこかが口火を切って発信しなければと考えたときに、それができるのはうちだと。福島には今回来てくれた新田祐大選手やS級S班の佐藤慎太郎選手をはじめ数々の選手がいて、昔から競輪王国と言われていましたが、今なお君臨しているところはあると思うんですよ。そしてこの競輪場には独自のポテンシャルもある。競輪業界全体のためにいわき平競輪場としてなにができるかを考え、今回の『競輪甲子園』の開催に至りました」
若手の育成や発掘を目指して立ち上げられたという『競輪甲子園』。今回、選手の参加料は無料とし、遠方からも参加しやすいようサポートも手厚くされています。その背景には2011年の東日本大震災があるといいます。
「いわき平は東日本大震災という未曾有の災害を経験した競輪場ですが、当時全国各地から送られる支援物資の受け入れ拠点にもなりました。いわき市にとってこの競輪場は、全国から支援をいただいたという象徴的な施設でもあるんです。ですから、その受けたご恩を何らかの形で全国に返していかなければならない、そういう宿命を持った競輪場だと私は思っています。感謝の気持ちを全国に発信するんだという強い思いが、今回の大会開催の背景にあります」
最後に『競輪甲子園』の今後の展望を。
「今回は東日本地区しか参加者の募集をかけませんでしたが、来年度は全国に広げますので、次からは全国規模での大会が開催できると思います。それと私個人としては、『競輪甲子園』というくらいですから、競輪のスター選手を誕生させるための大会というふうに捉えていて、未来の輝く原石を見つけたいというのが大きな目的の一つです。この大会をきっかけに一人でも多く競輪選手を目指す人が増え、将来競輪選手になったときにいわき平競輪場に来て、高校時代に『競輪甲子園』で走ったことを思い出してくれたら嬉しいですね。『競輪甲子園』が全国的に認知されて、いわき平競輪場が若い人たちにとって競輪の聖地、憧れの場所のような存在になれたらと思っています」