月刊競輪WEB

検索
編集部コラム KEIRIN ON MY MIND
特集 2024.10.01

編集部コラム KEIRIN ON MY MIND

米不足。少し入荷したと思ったら、まあ価格が高い。どうしたもんかな、とぼやきつつ競輪場へ向かう。いつものように昼過ぎ、ラーメン店に顔を出すと、あれっ、家族連れが2組。その間に常連のトミさんがひとりでぽつんと座ってる。

トミさん、ゴールデンウィークに種蒔きした農家へ稲刈りに行ったらしい。また顔が黒くなってるって茶化しそうになったけど、笑っちゃいけない、尊い労働を。「でもさあ、まあ暑かったよ」とトミさん。「気温もそうだけど、日差しがきついきつい」。9月も半ば過ぎたのに、地球は一体どうなっちゃうんだろう。新米の価格もかなり上がりそうだとか。この夏は水かけご飯と卵かけご飯の力で、体力を維持してきたのに。

やがて家族連れが店をあとにすると、店主のマサさんが出てきて、昼休みのためにのれんを店内にしまった。競輪場のラーメン店に家族連れのお客さんなんてどうしたの。マサさんが言うには、月に1回来てくれる近所のOL3人組が、タウン誌の街頭インタビューで、この店のことを宣伝してくれたとか。たぶんそれの影響だと思うけど、たまーに家族連れが来店してくれるんだよ、と。

いいことじゃない。実際、年配の男性ばかりじゃ、競輪に明日はないもの。「勇気を出して、競輪場に足を踏み入れてくれるのは本当にありがたいんだけど、家族連れは注文がバラバラなんだよね。取り分けて食べるから」。ワンオペでやってるマサさんにとって、味噌ラーメン、冷やし中華、普通のラーメンを注文されるとてんてこ舞いらしい。それは大変だと言ったら、「マサさん、そんなこと言ったらバチが当たるよ」とトミさんが言ってきた。農家の仕事を手伝ったあとしばらく、トミさんは真人間になってしまう。でも正論だよね。マサさんの発言をいさめなきゃいけない。

トミさんも自分の発言が気恥ずかしかったのか、競輪に話題を変えてきた。「米といえば、新潟の関智晴が戻ってきたじゃない」。関の家業は米農家らしい。昨年12月のいわき平で落車して、股関節や腰に大けがを負って、復帰したのは8月の大垣から。クラスもA級3班になって、チャレンジ戦での再スタートだった。9月の立川では決勝に乗って、前回の前橋では決勝の3着。前期までA級で戦ってたんだからそのくらいは当たり前と言うなかれ。ベテランの追い込み選手にとって、生きのいい新人たちに交じって戦い、決勝に乗ることは大変なこと。関は今年で不惑だ。立川の準決勝は特昇した125期の森田一郎の3番手を回って2着に突っ込んだし、前橋の決勝も1着は福田稔希、2着は渡邉壘で、いずれも125期の有望株。

米作りをしながら、競輪でも頑張っている、俺は応援するよ、とトミさん。それにラインに目標がないときは自力を出したり、飛びついたり、気持ちが入ったレースをしてくれる。見ていて感じさせるものがある選手というのはいるもんだ。それはトップクラスとか、チャレンジ戦だとかは関係ない。それが見たくて競輪場に通ってるとも言えるんですよ。

一人で悦に入っていると、トミさんとマサさんは2人で岐阜記念の話をしている。待って待って、俺も入れてよ。トミさんいわく、関との新潟つながりで滝本幸正が面白いと。2日目の負け戦で逃げ切って、今日も狙おうと思っていたらしい。エッ、トミさん、締め切りまであと10分だよ。それから検討会をしたけど、結局間に合わなかった。結果は北津留翼が勝って、滝本は2着で、3着に野口裕史が入って3連単は4万円ついた。1着で狙おうとしていた3人はほっとひと息。でも滝本は最終日も狙ってみたいな。

「さあ競輪は準決勝だから、気持ちを切り替えよう」とトミさん。マサさんも「そう、そう」。気持ちの切り替えは早いな、確かに。

追記:最終日の11Rで滝本絡みの3連単を購入。原田研太朗、滝本、北津留の④⑥⑤で決まって2万8440円。⑤⑥④ならあるのに…

この記事をシェア

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE

related articles