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編集部コラム KEIRIN ON MY MIND
特集 2024.02.21

編集部コラム KEIRIN ON MY MIND

昼過ぎに競輪場に到着。正門で場内ラーメン屋の常連、トミさんとばったり会った。

「今年の冬はどうかしてるよね。雪が降ったり、春の陽気になったり。春一番の風が嵐みたいだったり」。いつもはいきなり競輪の話から入るのに、どうしたの、トミさん、時候のあいさつなんて。「おかしくもなるよ。今年のGクラスの競輪、十万円以上の車券が多すぎる」。

そうそう、今年初っぱなの大宮記念の初日に百万円が出て、1月末のいわき平記念では3日目に十万車券の3連発もあった。今年は全日本選抜まで9車立てが6開催24日間あり、十万円以上の車券は31本。昨年は立川記念から静岡記念までの6開催で13本だった。いかに今年は大荒れのレースが多いか。穴が好きなトミさんがこぼす。「なんかフォームが乱れちゃうんだよね」と。長年、ギャンブルに興じている人には誰にも自分のフォームがあるもの。

ラーメン屋に着いて、店主のマサさんに道中のトミさんとの会話を話したら、「選手もフォームが大事だよ。この間、古性優作がフォームを思い出しながら走っているとコメントしてたもん」と応えてくれた。合ってるのかな、この例え。

ぶれちゃいけない。わかっちゃいるけど。でも堅いのが続いたり、荒れたレースが続くと、買い方のフォームが乱れてくるんだよね。レース後に、当たった人はどう考えて、どう組み立てたから、この車券が取れたんだろうかと考える。そこに時間を使って、次のレースがどうしてもおろそかになる。時間配分もうまくいかなくなって、負のループに陥る。

フォームっていえば、先日、別の競輪場でこんな人に出会った。

場内のベンチで仰向けに寝ていた60半ばの男性。彫りの深い顔立ちで、鼻は高い。ざんばら髪は白8、黒2。小柄で、黒づくめの服、素足に黒のスニーカー。一見して只者ではない雰囲気。具合でも悪いのかなと思ったものだから、「大丈夫ですか」と声をかけると、大きな目をあけて、体を起こした。「ああ」と答えた老人の横に座ってちょっと話した。若いころは、夜は麻雀屋で働き、昼は競輪三昧だったとか。まるで阿佐田哲也の世紀の傑作『麻雀放浪記』の中で生きていたかのよう。

この人の車券術の武器は3着逆流し。車券をひと通り買ったあと、必ず誰か一人を3着に固定して、1着、2着を5、6点、フォーメーションで逆に流す購入方法。

9車立てしかなかったころの競輪の勝ち上がりは3着が基本。もちろん狙って3着がとれるわけではないけれど、なぜかそうなる選手がいる。その選手を追ってみると確かに3着が多いことに気づいたという。当時はまだ3連単がないころで、7賭け式の3連単がスタートした2001年11月の立川競輪場には3日間通ったそう。全30レース中、3連単の万車券が17本出たときで、何個が取りましたと苦笑いを浮かべる。

例えば、最近はそうでもないけど、香川県の香川雄介は有名だった。すんなり先行の番手を回っても3着だし、前の選手に切れたのに、立て直して3着とか。SSになる前の守澤太志も強襲が届かず3着がよくあった。今は強くなりすぎちゃったけど。

3着に突っ込んできそうだとか、先行しそうな選手の2、3番手の選手を3着に決めて、逆に流すと、美味しい車券に巡り合うことがあると言う。それを聞いて、その日に実践してみたけど、この思考方法は1着を推理するときの、ギリギリに追い込んだ脳を解放してくれる。世界は広い。達人はいるんだなと感心した次第。

そんな話をみんなにしたら、マサさんが「それなら面白い選手がいるよ。岐阜の大洞翔平。ちょうど今、場外発売している豊橋を走っている」と言ってきた。

大洞翔平はこの1月、1年半ぶりにS級に返り咲いた、本当に何でもできる32歳の自在選手。今年は3場所を走って、352、423、36故。勝ち上がれてはいないが、2着2回、3着3回。内容のあるレースが多く、意図が伝わってくる走りをしている。前回のいわき平では、予選で3番手を取ってまくるレースをしたかと思えば、2日目は逃げた中嶋宣成の番手勝負。佐藤真一の外で競り勝って2着に流れ込んだ。豊橋の大洞は予選が吉田茂生を目標に6着、昨日の選抜は先行して、後ろを勝たせて7着。まだ確定板に挙がっていない。

「狙ってみようよ」。締切10分前に話がまとまり、マサさん、トミさん、俺で協力して、大洞を2着にして6点、3着にして6点購入。勝つ車券はどうする?考えてる時間がないし、話の流れから切ろうよということになった。結果は吉田茂生の先行を番手から交わした大洞が1着。3連単の配当は6960円。

大洞選手、S級復帰後の初勝利おめでとうございます。たいへん失礼な車券を買ってしまい、すみませんでした。

俺たちが車券の達人になる日はくるんだろうか。

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