月刊競輪WEB

検索
編集部コラム KEIRIN ON MY MIND
特集 2023.12.20

編集部コラム KEIRIN ON MY MIND

12月になるとギャンブルファンは気持ちが浮き立つ。こうエッセイに書いていたのは伊集院静。先月の24日に73歳で亡くなったんだな。そんなことを思いながら、師走の競輪場に向かう。

昼の営業が終わって、休憩に入ってるラーメン屋に顔を出すと、店主のマサさん、常連のトミさん、それにタナカ君がいた。こちらも席につこうとしたら、マサさんが伊集院氏の先の言葉を言い出した。やっぱりみんなそう感じるんだなあ。

しばしこの小説家の話。トミさんが「エッセイで、選手全員が勝利至上主義だったら、競輪はこんなに長く続いていなかったというのを読んで、そうそう、だから競輪は面白いんだよと唸ったのを覚えてる。車券を買うことを競輪を打つっていうのがかっこいいんだよね」と言う。「父親の訃報を聞いて、あの人は白と黒の1番車、2番車を買うんだ、少し厚めに。一般的には不謹慎だけど、ギャンブルをする人間には親父さんへの追悼の意がわかるんだよね」とマサさん。

面識なんかないけど、伊集院氏を何十年か前の川崎競輪場で見かけたことがある。来賓席の階にあった、窓口二つの手売りの車券売場。車券を買い終わって出ようとしたら、入れ替わりに入ってきた。ちょっと見学。氏はポケットから取り出した何万円かを穴場に突っ込み、オッズのモニターを見ながら、買い目と金額を言っていく。それを聞いて、穴場の女性がせっせとマークシートを塗って機械に通す。お金がなくなると、「先生、足りないですよ」と言われて、ポケットから何万円かを渡す。氏が少し考えていると、「先生、締切2分前」とか言われてた。穴場の女性は終始ニコニコ。つられてこちらも笑みがこぼれた。豪快。声がでかい。ひたすら打つっていう感じ。

8年前の4月。共同通信社杯を見に防府へ行ったとき。競輪場に行く前に夏目雅子がねむっている伊集院家のお墓を参ったことがある。青い空、瀬戸内海からのそよ風を心地よく感じながら、水子地蔵が並んでいる細い道を歩いたな。その大会で優勝したのは当時47歳の神山雄一郎。これがGⅡ以上の開催で、今のところ最後の優勝だったことも思い出した。

そんな話をしてたら、聞き役に回っていたタナカ君が口を開いた。「今回の佐世保記念を走っている藤田昌宏。伊集院静が生まれ育った山口県のお隣りの県の追い込み選手ですけど、最近、先行するんですよ。49歳ですよ」。話を強引に変えようとしているな。

12月初めの玉野の2日目。藤田は前に出て、誰も来ないので打鐘4コーナーから腹をくくって先行。後ろの併走もあって逃げ切ってしまった。続く前回の別府記念は補充で参加。いきなり赤板2コーナーから踏み出す積極策で4着。6月小倉、10月和歌山でも逃げているけど、基本は追い込み選手のはず。練習の裏付けがあるのだろう。人に前を任されると長い距離の自力が飛び出します。要注意。

話は戻って伊集院氏。氏が師と仰いでいたのは「いねむり先生」こと阿佐田哲也。師の棺の中には愛読していた競輪専門紙「赤競」を入れてあげたそうだが、伊集院氏の棺には何か競輪関係のものを入れてあげたのだろうか。

この記事をシェア

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE

related articles