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第34回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントGⅠ展望
レース展望 2025.10.08

第34回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントGⅠ展望

#グレードレース展望

 第34回寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントが3年ぶりに前橋競輪場で開催される。9月の共同通信社杯競輪決勝では落車、失格のアクシデントがあったが、5車で結束した近畿ラインから44歳の南修二がビッグレース初優勝を達成しており近畿の勢いはとどまることを知らない。今回も鉄壁のラインを誇る近畿勢がこのまま突っ走っていくのか、それとも近畿の牙城を崩す勢力が出てくるのかが一番の焦点となるだろう。もちろんGⅠも残り2大会となり、年末のグランプリ出場権をかけた争いからも目が離せない。

近畿コンビが中心だが3車そろった関東も強力だ

 開催初日のメインとなる日本競輪選手会理事長杯には5月に青森競輪場で開催された全日本プロ選手権自転車競技大会(全プロ)のケイリンで優勝した吉田拓矢、スプリントで優勝した雨谷一樹、1キロタイムトライアルで優勝した新田祐大の3名と全プロに出場したS級S班6名が出場するが、ここで5着までに入った5名は2日目のローズカップと3日目の準決へ無条件で進出できる。脇本雄太と古性優作のゴールデンコンビが中心だが、雨谷、吉田、眞杉匠と3車そろった関東も強力だ。もちろん新山響平と新田の北日本コンビ、郡司浩平と岩本俊介の南関東コンビの一発も十分だ。
 関東3車の並びは難しいが、順当に考えると眞杉-吉田-雨谷か。あるいは吉田や雨谷が先頭を買ってでるケースもありそうだ。ちなみに昨年の理事長杯では菊池岳仁の逃げに乗った眞杉が捲ってきた脇本をブロックしてから1着でゴールインしている。9月の共同通信社杯では一次予選の4Rが中止となり抽選に負けた吉田は勝ち上がれずに途中欠場、雨谷も抽選に負けて2日目の特一般に出場するも落車に見舞われて途中欠場となっており、吉田も雨谷もその悔しさを今大会にぶつけてくるだろう。
 新田は失格が相次いで評価点が下がったために今期は2班に降格、近況の成績も思わしくなく今回が今年初のGⅠ出場となる。しかし、全プロのタイムトライアルで優勝しているとおり脚力は決して衰えていない。前橋は3年前の寬仁親王牌を優勝してグランドスラムを達成した相性のいいバンクだけに、久しぶりの新山との連携で好走を期待したい。新山も5月の日本選手権競輪以降はGⅠの優出がなく、共同通信社杯も準決で敗れたが二次予選Bと4日目特選で2勝とS級S班の意地を見せている。
 古性は共同通信社杯決勝では捲ってきた太田海也をブロックして落車を誘発して失格となってしまった。地元の寺崎浩平を援護したいという強い思いからの行為だったが、圧倒的な1番人気に推されながら車券を買ってくれたファンに迷惑をかけたことを痛感しており、今回こそは優勝を狙ってファンの期待に応えてくれるだろう。昨年の大会では寺崎-脇本-古性の並びから展開が大きくもつれながらも優勝を果たしており、今回も脇本との連携から近畿の底力を見せつけてくれるだろう。
 脇本は共同通信社杯の準決では福永大智に前を任せる競走だったが、福永が中野慎詞に叩かれたときに切り替えのタイミングを誤ってしまい、なにもできずに8着に終わった。それでも4日目特選は準決で不甲斐ない走りをしたお詫びとばかりに6番手から捲って上がりタイムは10秒8で地元ファンの喝采を受けていた。一次予選は雨中の競走となったが8番手から捲って11秒1、二次予選Aも8番手から捲って10秒5とバンクレコードを更新しており、今回も脇本らしい走りでファンの期待にきっちり応えてくれるだろう。
 郡司は共同通信社杯ではまさかの一次予選敗退となったが、2日目特一般は逃げ粘りの2着で佐々木龍とワンツー、3日目選抜は捲って1着、4日目特選は捲りの2着で岩本とワンツーと調子は悪くない。10月2日時点での獲得賞金ランキングでは6位と平塚でのグランプリは射程圏内につけているが、今年はGⅠでの優出が6月の高松宮記念杯競輪のみなのが本人はもちろんファンにとっても物足りず、獲得賞金ランキングでは13位と厳しい状況にいる岩本とともに勝ち上がりを目指してくるだろう。

吉田拓矢 茨城 107期
新田祐大 福島 90期
古性優作 大阪 100期
脇本雄太 福井 94期
郡司浩平 神奈川 99期


タイトルホルダーの寺崎が主役の座を譲らない


 開催初日の特別選抜予選2個レースでは全プロで優秀な成績を収めた選手たちを始めとした18名が出場するが、各レースで2着までに入った4名が無条件で2日目のローズカップと3日目の準決に進出できる。中心となるのは9月の地元開催の共同通信社杯で優勝こそならなかった近畿ラインを力強く引っ張った寺崎と、3連勝で決勝まで勝ち上がって絶好調ぶりを披露した深谷知広の2人だ。特別選抜予選に5名が出場と層の厚い中四国勢も犬伏湧也や河端朋之らを先導役に復活を狙ってくるだろう。
 寺崎は共同通信社杯においては準優勝だったが、4人の単騎勢に付けいる隙を与えずに近畿ラインを引っ張った走りはタイトルホルダーにふさわしい走りだった。準決も逃げて2着で南とワンツーを決めて別線を完封している。一次予選では中野に主導権を取られて最悪の9番手となったが、そこから捲って2着に突っ込んだスピードも素晴らしく、もちろん今回も堂々の主役を務める。全プロのチームスプリントで寺崎とタッグを組んで優勝した福井の新鋭・岸田剛と内山慧大の走りにも注目したい。
 深谷は共同通信社杯の決勝では赤板で上昇して近畿ラインを攻めにいくが古性に捌かれて後退、5着と不本意な結果に終わった。それでも一次予選は8番手からの捲りで上がりタイムは10秒7、二次予選も捲りで10秒7、準決も捲りで11秒1と圧倒的なスピードを見せつけており絶好調だ。今年は2月の全日本選抜競輪と6月の高松宮記念杯で優出して獲得賞金ランキングでは8位と当落線上につけており、2年ぶりのグランプリ出場を目指し高速バンクの前橋で再び自慢のスピードを見せつけてくれるだろう。
 中四国勢は近況元気がなく、獲得賞金ランキングで犬伏が10位、清水裕友が16位で、7月のサマーナイトフェステイバルでの落車の影響で欠場が続いた松浦悠士の3人がS級S班からの陥落の危機に瀕している。9月の岐阜記念決勝では犬伏が打鐘の8番手から得意のカマシで前団を飲み込み、追走の清水がきっちり差して優勝と決して調子は悪くない。しかし、共同通信社杯では清水は準決敗退、犬伏は二次予選Aで敗退と本来の力を出し切れていない印象で、S級S班のプライドにかけての奮起を期待したい。
 菊池は昨年の全プロの1キロタイムトライアルでは大会新で優勝しているが、今年は新田に敗れて2位だった。2位とはいえ超地脚はもちろん健在だが、現在の競輪は地脚よりもカマシなどのダッシュ力のあるほうが有利な競走形態になっているのが辛いところだ。それでも8月のオールスターでは準々決勝Aで敗れているが、一次予選と二次予選Bでは逃げ粘りの2着で突破と健闘している。競走形態が変化しても競輪の花形はやはり先行であり、今回もこれぞ先行という走りをきっと見せてくれるだろう。

寺崎浩平 福井 117期
深谷知広 静岡 96期
清水裕友 山口 105期
菊池岳仁 長野 117期

上り調子の嘉永泰斗がGⅠ初優出を目指す


 初日一次予選9個レースでは各レースで1着と2着に入った18名が2日目の二次予選Aに進出、3着と4着に入った18名が二次予選Bに進出し、2日目の二次予選B3個レースでは各レースで1着と2着に入った6名と二次予選A3個レースで4着までに入った12名が3日目の準決に進出できる。
 嘉永泰斗は準決まで勝ち上がった8月のオールスターから調子があがってきており、9月の岐阜記念では1、1、2着の勝ち上がりで決勝7着、そして次場所の共同通信社杯では4日間勝ち星はなかったが、一次予選は古性との捲り合戦で2着、準決は寺崎-南の3番手を坂井洋との競り合いの末に取りきって3着で2023年9月の共同通信社杯以来のビッグレース優出を決めた。決勝ではさすがに単騎で5車の近畿ラインに立ち向かうのは厳しかったようだが、今の勢いと調子があればGⅠ初優出も夢ではないだろう。
 松井宏佑は共同通信社杯では準決で惜しくも4着と敗れたが、二次予選Aでは寺崎-小森貴大の地元コンビの3番手を取り切るとゴール前で鋭く追い込んで1着、4日目特別優秀も菅田壱道-和田圭の3番手に追い上げからの追い込みで1着だった。直前の岐阜記念も準決で敗れているが、4日間で1着2回、2着1回と好成績で、二次予選では上がりタイム11秒1で逃げ切りと、もちろん自力脚も健在だ。獲得賞金ランキングでは12位とまだチャンスはあるだけに、今回は最低でも優出を目標に強い走りを見せてくれるだろう。
 森田優弥は8月の西武園記念では一次予選は逃げ切り、二次予選は捲りの2着、準決も捲りの1着で突破し、決勝では逃げて9着だったが眞杉-宿口陽一のワンツーに貢献している。次場所の共同通信社杯は準決で8着と敗れたが、一次予選は捲りの1着で上がりタイム11秒0、二次予選は深谷の高速捲りに屈したが逃げて2着に粘っている。FⅠ戦だが8月の前橋は3日間逃げて初日特選が3着、準決が1着、決勝も1着とバンクとの相性もよく、今回も好調の波に乗って勝ち上がっていくだろう。

嘉永泰斗 熊本 113期
松井宏佑 神奈川 113期
森田優弥 埼玉 113期



プレイバック 2020年 第29回大会 優勝 脇本雄太
脇本雄太が逃げ切って通算5度目のGⅠ制覇


 松浦悠士-橋本強の中四国コンビが前受け、3番手に新田祐大-守澤太志の北日本コンビ、単騎の郡司浩平が続き、6番手に脇本雄太-東口善朋の近畿コンビ、8番手に山田英明-山田庸平の九州兄弟コンビの並びで周回を重ねる。青板前から山田兄弟が上昇し、青板バックで誘導員の後ろに入り、山田兄弟を追った郡司が3番手となり、引いた松浦は4番手となる。6番手となった新田は前との車間を切って8番手となった脇本を警戒する形でにらみ合いが続く。赤板ホームにかかると松浦が飛び出して先頭に立つが、すかさず脇本が巻き返して打鐘とともに先頭に立って主導権を奪う。3番手で口が空いたところに脇本を追ってきた新田が入り、4番手に松浦、新田を追いきれなかった守澤が5番手に入り、橋本が6番手、郡司が7番手、山田兄弟が8番手の並びで最終ホームを通過する。4番手となった松浦は懸命に前を追うが車間は詰まらず、後続からの巻き返しもなく、快調に飛ばす脇本が逃げ切って優勝、3コーナーから仕掛けた新田が2着に入り、東口が3着。


バンクの特徴 無風の高速バンクでスピードに乗りやすい

 周長は335m、最大カントは36度、見なし直線距離は46.7m。1990年に日本初の全天候型屋内バンクとして新たにオープンした前橋競輪場は日本一のカントを誇る小回り走路で、屋内バンクのために風の影響も皆無でスピードに乗りやすく、積極性の高い自力選手に向いている。基本的には先手ライン有利とされているが、輪界のトップクラスが集うGⅠではやはり逃げよりも捲りのほうがやや優勢だ。
 2022年10月に開催された寬仁親王牌の決まり手を見てみると、全48レースのうち1着は逃げが10回、捲りが17回、差しが21回、2着は逃げが4回、捲りが9回、差しが16回、マークが19回となっている。ちなみに2019年の大会では逃げ切りが4回だけだったが、2020年の大会では15回だった。
 ただし逃げ切りのほとんどは敗者戦での出現であり、2022年の大会でも勝ち上がり戦での逃げ切りは2日目6Rの二次予選Bの坂井洋の1回のみだった。大会の最難関である3日目の準決3個レースも、10Rは吉田拓矢が捲って1着、11Rは新田祐大の捲りに切り替えた古性優作が追い込んで1着、12Rは坂井洋の先行に乗った平原康多が番手捲りで1着と、小回りの高速バンクであってもGⅠではやはり逃げ切るのは至難の技だ。
 なお準決3個レースで注目したいのは12Rの守澤太志だ。目標の小松崎大地が後手を踏んで捲り届かずの3着だったが、守澤は小松崎が行けないと見ると番手から発進して大外を捲り追込で2着に突っ込んでおり、小回りバンクだけに本来は追い込み型の選手の自力発進による連絡みがよく見られる。そのためゴール前で内へ外へと突っ込んでいる選手たちのおかげてスジ違いの決着が多く、全48レースのうち29レースがスジ違いで決まっている。
 守澤は決勝でも優勝には手が届かなかったが、勝負どころで目標の新田が内に詰まってしまうと、最終3コーナーから大外を捲っていき2着に突っ込んでおり、今回も追い込み選手の自力発進は注意が必要だ。


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