第76回高松宮記念杯競輪が岸和田競輪場で開催される。6日制のGⅠで前半3日間はガールズケイリンのGⅠ・第3回パールカップと同時開催となるが、準決勝までの勝ち上がりは東日本地区と西日本地区選手たちが分かれて戦う伝統の東西対抗戦だ。5月の日本選手権決勝でワンツーを決めて、近畿一強の流れにストップをかけた眞杉匠率いる関東勢が中心になりそうだが、地元戦で反撃を誓う古性優作率いる近畿勢もやはり強力で、機動力では決して引けを取らない南関東勢や中四国勢の一発も侮れない。
関東勢が中心だが、新山響平の先行力も侮れない
東日本は北日本、関東、南関東の3地区の戦いで、中心となるのは眞杉匠率いる関東勢だ。ただ眞杉は好位からの捲りを得意とする自在型で、高松宮記念杯は準決が4個レースで勝ち上がりは2着と厳しいため展開次第では…、という側面があるのも否めない。昨年も関東勢は日本選手権で5人が優出して平原康多が優勝しているが、高松宮記念杯での関東勢の優出は1人だけだった。やはり競輪は先行選手が主役で、先行日本一の新山響平率いる北日本勢の台頭も十分で、積極性の高い自力選手が揃う南関東勢の反撃にも期待したい。
新山響平は5月の日本選手権決勝では、久しぶりにGⅠ決勝で北日本3車のラインを組めたが、頼もしさがある反面、責任感からくる緊張があったのかペースをうまく掴みきれずに6着に終わったのは残念だった。それでも松井宏佑に切らせることなく、前受けから突っ張り切って主導権を握ったのはさすがとしか言いようがない。二次予選は逃げ切り、準決は太田海也の番手から捲って阿部力也とワンツーと好調で、今回も自分の信じるスタイルを貫き、北日本の仲間を引き連れての先行で優出を目指す。
関東は日本選手権決勝でワンツーを決めた眞杉匠と吉田拓矢の栃茨コンビが強力だ。眞杉は最後の直線での菅田壱道との接触がなければ押し切りも十分のスピードだったが、吉田の上がりタイムも10秒6と眞杉に匹敵する素晴らしいスピードで、堂々たるダービー王が誕生した。吉田は1月の立川記念で落車と今年は最悪のスタートだったが、2場所欠場後の2月の全日本選抜で優出、3月の玉野記念では単騎捲りで優勝と落車後とは思えない強さを発揮しており、今回もダービー王の名にふさわしい走りを見せてくれるだろう。
郡司浩平は6月の取手まで記念優勝が5回と好調だが、全日本選抜は準決で4着敗退、日本選手権も準決で4着に敗れているだけに今度こその意気込みで臨んでくるだろう。深谷知広と松井宏佑の積極的な先行型がいるのも郡司には心強い。平塚記念の準決では逃げた深谷を郡司がうまくかばって和田真久留とともに優出、決勝では深谷のハイスピード先行をぴったり追走し、そのハイスピードの上をいく番手捲りで和田真久留とワンツーを決めており、今回も南関東結束から強さを見せつけてくれるだろう。
古性優作がホームバンクで3度目の優勝を狙う
西日本は中部、近畿、中国、四国、九州の選手たちによる戦いで、中心となるのは古性優作率いる地元の近畿勢だ。5月の日本選手権では近畿からの優出が古性ひとりだったのが気になるところだが、機動力の充実度はやはり一番だ。しかし、機動力が多いために番組によっては近畿同士が別線で戦わざるを得ないケースも出てくるため、近畿同士の叩き合いの間隙を突いての他地区の台頭も十分だ。復調気配が見えてきた中四国勢や九州勢も魅力的だし、日本選手権で優出して健在ぶり見せつけた浅井康太率いる中部勢も侮れない。
浅井康太は日本選手権決勝では7着に終わったが、2日目特別選抜予選では目標の山口拳矢が行けないと見ると6番手から内に切り込み、直線鋭く抜け出して1着とさすがの走りを見せている。次場所の宇都宮記念は準決で敗れたが、初日特選ではバック9番手の最悪の展開からやはり内に切り込み、直線抜け出しての1着と鋭さを発揮している。山口拳矢は落車欠場明けで日本選手権では二次予選で敗れたが、次場所の平塚記念で決勝3着と復調気配で、敗者戦ながら日本選手権で3連対を挙げた藤井侑吾も侮れない。
古性優作はホームバンクで開催の高松宮記念杯を第73回大会と第74 回大会で連覇しており、日本選手権決勝では3着だっただけに今回は必勝を期して臨んでくるだろう。仮に今回も決勝で単騎になったとしても、日本選手権決勝で見つかった課題を胸に刻んで積極的に仕掛けてくるにちがいない。脇本雄太は2月の全日本選抜を優勝して史上初のグランプリスラムを達成したが、日本選手権ではまさかの二次予選敗退、次場所の平塚記念と5月取手記念を欠場と体調面に不安が残るだけにどこまで持ち直してくるかに注目したい。
中四国では清水裕友が復調ムードだ。清水は肺血栓のために年頭から欠場が続き、復帰戦となった2月の全日本選抜も二次予選敗退だった。しかし、3月の玉野記念では決勝は9着ながら二次予選と準決では取鳥雄吾と町田太我との連携から2勝をマーク、4月の高知記念決勝では脇本雄太、眞杉匠、松井宏佑らとの対戦となったが、犬伏湧也の逃げに乗って優勝している。日本選手権では二次予選で無念の失格となったが、次場所の宇都宮記念では捲りの3着で準決を突破しており、今回も中四国連携から勝ち上がりを目指す。
九州は切れ味が戻りつつある山田庸平と嘉永泰斗の捲り一発が魅力的だ。山田は全日本選抜と日本選手権は二次予選敗退、3月のウィナーズカップも準決で敗れているが3勝を挙げており、4日目特選では5番手から豪快に捲って上がり8秒9のバンクレコードを叩き出している。嘉永もGⅠでは二次予選を突破できずに苦しんでいるが、4月の武雄記念では捲りの1着で準決を突破して決勝6着、5月の宇都宮記念も捲りの1着で準決を突破して決勝6着と調子は悪くなく、2人とも展開さえ向けばGⅠ優出が期待できるだろう。
自慢のスピードを生かした積極策で優出を狙う
中野慎詞は世界を舞台に活躍する競技者だが、国内の競輪では結果を出せずにいるのが本人はもちろんファンにとってももどかしい。年末のヤンググランプリでの太田海也との壮絶なもがき合いは全国のファンを興奮の渦に巻き込んだだけに、あの痺れるような走りを多くのファンは熱望しているはずだ。5月の日本選手権では二次予選で敗れたが、一次予選と5日目特選一では逃げ粘りの2着で北日本ワンツーと調子は悪くないだけに、自分の力を信じて積極的に仕掛けていけば今度こその勝ち上がりが期待できるだろう。
太田海也は日本選手権の準決では打鐘から前受けの新山響平を叩きにいくが、松浦悠士が離れたために番手に新山に入られてしまい番手捲りを食らって9着と残念な結果に終わった。それでも一次予選は逃げ切りで岩津裕介とワンツー、二次予選も1着入線の清水裕友の失格による繰り上がりながら寺崎浩平の反撃を突っ張りきっての逃げ切りとさすがの走りを見せていた。6日目優秀では中野慎詞との対戦で飛ばしすぎたために末を欠いて9着だったが、もちろん今回も中四国勢を連れての先行勝負で勝ち上がっていくだろう。
犬伏湧也は日本選手権の二次予選では逃げ粘りの2着で松本貴治と四国ワンツーを決めているが、準決では惜しくも4着と敗れている。しかし、柏野智典を連れ打鐘とともに前団を一気に叩いての主導権取りとレース内容は決して悪くなかった。次場所の平塚記念の準決でもやや末脚を欠いての3着だったが、やはり7番手から打鐘とともに一気にカマして主導権取りと犬伏らしい走りを見せている。今年はまだビッグレースでの優出はないが、今回もパワー全開の積極的な走りでファイナルの切符を狙ってくるだろう。
プレイバック 2019年 第70回大会 中川誠一郎
脇本雄太の逃げに乗って中川誠一郎が3度目のGⅠ制覇
清水裕友-小倉竜二の中四国コンビが前受け、3番手に平原康多-木暮安由の関東コンビ、5番手に新田祐大-渡邉一成の福島コンビ、7番手に脇本雄太-中川誠一郎の混成コンビ、9番手に単騎の小原太樹の並びで周回を重ねる。赤板まで動きはなく淡々と周回が進み、赤板2コーナーからようやく脇本が動き、打鐘とともに一気に前団を叩きにいく。誘導が退避すると同時に清水も動いていくが脇本のスピードに合わせることができず、脇本ラインと続く小原の3車があっさり出切ってしまい、4番手になった清水が懸命に前を追う形で最終ホームを通過する。しかし、脇本のカカリがよく、脇本ラインと清水の差は徐々に広がっていき、最終2コーナーでは3車身ほどの差がついてしまう。そこへ8番手と立ち遅れていた新田が猛然と巻き返してくる。新田のスピードはよく渡邉は離れてしまうが、バック過ぎからぐんぐん加速して2センターで中川の横まで迫る。同時に中川も踏み出して最後の直線では2人のもがき合いとなるが、中川が4分の3車身差で振り切って優勝、新田が2着、小原が3着に入る。
バンクの特徴
日本有数の高速バンクで先行選手の健闘も光る
周長は400m、最大カントは30度56分00秒、見なし直線距離は56.7m。岸和田競輪場は2年近くに渡る大規模改修工事を経て2021年5月にリニューアルオープンした。スピードに乗りやすい高速バンクとなっている。
昨年6月に開催された高松宮記念杯のベストタイムは6日目11Rの特別優秀で深谷知広が3番手から捲って叩き出した10秒5だが、6日間の開催で10秒台が4回出ており、その他のレースもほとんどが11秒台前半の上がりタイムで決まっている。同時開催のパールカップでも3日目5Rの選抜で日野未来が3番手から捲って11秒6と男子顔負けのタイムをマークしている。
高速バンクなので捲り有利が基本だが、昨年の大会では先行もかなり健闘していた。一昨年の大会では全60レース(パールカップ12個レースを除く)のうち先手ラインの選手が1着を取った回数は3分の1弱の19回だったが、昨年の大会では半数の30回だった。大会の最難関である5日目の準決4個レースも、9Rは先手ラインからの番手捲りで1着、10Rは逃げ切り、12Rは先手ラインの番手から抜け出しての1着だった。高速バンクで先行もカカルので、好調選手ばかりが勝ち上がってきた準決では捲りも簡単には決まらない。
昨年の大会の決まり手を見てみると、1着は逃げが9回、捲りが22回。差しが29回、2着は逃げが12回、捲りが7回、差しが17回、マークが24回となっている。やはり捲りが優勢だが、逃げの連絡みが計21回と多いのにも注目したい。
バンクは海岸に近い平地にあるため1センターから浜風が吹いて通常はバック追い風が多く、うまく追い風に乗ればスピードに乗りやすい。ただ天候が崩れて雨模様になと、浜風が山風に変わってホームで追い風になることもある。直線はやや長めでとくに伸びるコースはなく、ゴール前ではみんなスピードに乗っているうえにホーム向かい風が多いのでイエローラインあたりの大外強襲というのはあまり見られず、捲りは早めに仕掛けたほうがいい。