第9回ウィナーズカップが伊東温泉競輪場で開催される。ウィナーズカップは車券に最も貢献している1着回数上位者を中心に出場選手が選抜されており、F1戦を中心に活躍する若手選手でもビックレースに出場しやすく、S級2班在籍の選手でも1着回数上位者であれば初日の特別選抜予選にシードされるのが大会の最大の特徴だ。優勝候補の筆頭はもちろん2月の全日本選抜で史上初のグランプリスラム(全GI優勝+GP優勝)を達成した脇本雄太だが、上位陣相手に奮闘する若手選手の走りにも注目したい。
脇本雄太が近畿ラインを足場に連覇を目指す
2月の全日本選抜競輪では準決3個レースに近畿勢が12人勝ち上がり、そのうち6人が決勝進出、決勝では近畿勢は3人ずつ分かれて別線となったが、寺崎浩平の捲りに乗った脇本雄太が優勝してグランドスラムを達成している。昨年8月のオールスターでの古性優作の優勝から始まって、10月の寬仁親王牌、11月の競輪祭、12月のグランプリ、そして全日本選抜と古性優作と脇本雄太が優勝を分け合っており近畿の勢いは留まる気配がない。今回のウィナーズカップの格付けはGIIだが、眞杉匠が優勝した昨年9月の共同通信社杯のように近畿勢の猛攻に待ったをかけられる地区が出てくるかどうかに注目したい。
全日本選抜の脇本雄太は腰痛の悪化のため初日特別選抜予選は3番手から巻き返せず9着と状態を不安視された。それでも二次予選は捲って2着、準決は眞杉匠にキメられ窓場千加頼との連係を外してしまったが懸命に踏み上げて3着に突っ込んだ。以前のように逃げて粘れるような状態ではなさそうだが、捲りの切れ味はやはり鋭い。決勝も予想とは違い寺崎浩平が捲りになったのが脇本にとっては幸いだったと言ってよく、今回も本調子ではなくとも充実の近畿ラインを足場にグランドスラマーの威厳を見せつける。
古性優作は昨年のグランプリ覇者で1月の和歌山記念も6番手からの捲りで優勝しているが、次場所の松阪記念は決勝6着、2月の奈良記念は決勝2着と近況は絶対的な強さがやや影を潜めている印象だ。全日本選抜も二次予選と準決で2勝とさすがの走りを見せているが、初日特別選抜予選は8着、決勝も近畿別線で戦いづらいところもあったが3番手から出ていけずに7着と大敗している。しかし、本調子ではなくとも古性のオールラウンダーぶりは輪界随一であり、今回も完全復活を目指して臨んでくるだろう。
深谷知広は2月の静岡記念でうれしい地元記念初優勝を飾り、その勢いに乗ってかつてのホームバンクで開催された全日本選抜では地元ファンの熱い声援を受けて輝きを放った。初日特別選抜予選は8番からの大捲りで脇本雄太や新山響平を下して1着、準決は打鐘からスパートして新山響平を叩いて主導権、番手の松谷秀幸が落車して裸逃げとなりながらも2着に粘り込んでいる。決勝は単騎戦と苦しい戦いを余儀なくされたが最後は捲り追い込んで3着と健闘しており、今回も先行・捲りで強さを見せつける。
郡司浩平は1月の立川記念で決勝2着だったが、次場所の松阪記念と高松記念で2場所連続優勝と今年は平塚で開催されるグランプリ出場を目指して年頭から飛ばしてきた。全日本選抜でも初日特別選抜予選は逃げて2着で松谷秀幸とワンツー、2日目スタールビー賞は深谷知広の逃げに乗って1着だったが、準決では暴走で失格となった中釜章成と寺崎浩平の2段駆けに敗れて4着に終わった。準決敗退のショックからか4日目特別優秀も3着だったが調子は決して悪くなく、今回も賞金の上積みを狙って優勝を目指してくる。
眞杉匠が持ち味の自在戦で勝機を掴む
眞杉匠は2月の静岡記念が今年初出走で、決勝は8着ながら4日間バックを取り二次予選と準決は連勝と上々の調子だった。次場所の全日本選抜でも初日特別選抜予選では打鐘で寺崎浩平を叩いて逃げ切り、準決では脇本雄太をキメ窓場千加頼の番手を奪って1着と眞杉らしい自在戦を見せつけた。ただ決勝は明らかに飛びつき狙いだったが、想定していた展開と異なっていたために突っ張り先行せざるを得なくなり9着に終わったのは残念だった。その反省を胸に今回は展開負けしない柔軟な走りで勝機を掴んでくるだろう。
ウィナーズカップでは第4回大会と第7回大会で松浦悠士が優勝、第5回大会と第6回大会で清水裕友が連覇と中国コンビにとっては大得意の大会だったが、はたして今回はどうか。清水裕友は全日本選抜は肺血栓の治療明けの出場だっため二次予選で敗れており今回も多くは望めないだろう。一方の松浦悠士も直前の静岡記念での落車後の出場だったが、準決進出と動きは悪くなかった。S級S班から陥落した松浦だが、一時期の低迷ぶりから脱出しつつあるのは確かで、相性抜群の大会での復活を期待したい。
犬伏湧也は全日本選抜では準決で敗れたが、二次予選では坂井洋と5番手の取り合いとなって脚を使わされながらも最後は大外を捲って1着と調子は悪くない。走る姿は決してスマートとは言えないが、展開がハマったときの爆発的なパワーはトップクラスの選手たちとの対戦でも決して引けをとらない。4日目特選では佐々木悠葵に叩かれて3番手に下がるが、打鐘から佐々木を叩き返し、荒井崇博が離れ番手に佐々木が入って裸逃げの状態になりながらも逃げ切っており、今回もパワー満点の走りで勝ち上がっていくだろう。
浅井康太は全日本選抜では準決で敗れたが、二次予選では目標の山口拳矢が不発の展開から中コースを鋭く伸びて2着と中部のエースは健在だ。直前の静岡記念では決勝は9着だったが、二次予選と準決では藤井侑吾との連係で1着と3着だ。中部期待の新鋭・村田祐樹にも注目だ。ビッグレースで活躍するにはまだまだ力不足なのは否めないが、1月の松阪記念の二次予選では浅井が村田の逃げに乗って1着、準決も浅井は村田との連係から3着になっており、中部は相変わらず少数精鋭ながら決して侮れない。
山崎賢人が持ち味の早駆けで勝ち上がる
山崎賢人は相変わらずの早駆けで末を欠いての着外という走りを続けているが、全日本選抜の4日目特別優秀では新山響平の逃げを捲って1着と意地を見せている。そして今回の伊東温泉は赤板先行が当たり前のバンクだけに、山崎にとってはもってこいの大会となるかもしれない。やや古い話になるが2020年の共同通信社杯では準決を2着で突破して優出しており今回も期待できそうだ。九州では嘉永泰斗が復調してきており勝ち上がり戦での捲り一発がありそうだし、大物喰いの定評がある伊藤颯馬の逆転一発も魅力的だ。
新山響平は全日本選抜では準決で惜しくも4着に敗れ、4日間勝ち星なしに終わった。北日本唯一のS級S班で、北日本を一身に背負わざるを得ない立場は脚力的にも精神的にもかなり厳しいものがあるにちがいない。しかし、今回は中野慎詞の参戦があるし、小原佑太も全日本選抜では一次予選で敗れているが4日間バックを取る積極的な走りをしているので、北日本勢がうまく連係できれば新山の重責もかなり軽減されるだろうし、脚力的にも精神的にも開放された新山が本来の強い走りをきっと見せてくれるだろう。
今回の目玉のひとつはナショナルチームの中野慎詞と太田海也の参戦だろう。昨年のヤンググランプリでは中野が太田とのもがき合いに勝つもゴール寸前で纐纈洸翔に交わされて2着だったが、中野と太田のつば競り合いは見応えたっぷりだった。2月にマレーシアで開催された「アジア選手権トラック2025」では中野が男子チームスプリントと男子ケイリンで金、太田が男子チームスプリントと男子スプリントで金を獲得しており、国内の競輪でも中野と太田の2人が旋風を巻き起こしてくれるだろう。
プレイバック2024年 第8回大会
脇本雄太が2019年の大会以来2度目の優勝
窓場千加頼―脇本雄太―古性優作の近畿トリオが前受け、4番手に清水裕友―河端朋之の中国コンビ、6番手に北井佑季―深谷知広の南関東コンビ、その後ろに単騎の伊藤颯馬、坂井洋が続く並びで周回を重ねる。赤板まで隊列に動きはなく、赤板1センターから北井がようやく踏み上げて上昇すると、それを見ていた窓場が打鐘ともにスパートする。北井は打鐘過ぎに2番手まで上がるが、近畿トリオを叩けず脇本のアウトで並走となる。すると北井の上昇を追ってきていた伊藤が一気にカマして前団に襲いかかる。伊藤は最終1コーナーで窓場に迫り、2コーナーで捲り切ってしまう。脇本は北井と並走のまま伊藤に切り替えるが、北井はもう一杯の様子で深谷も後退していき、坂井が内をすくって近畿勢の後ろに入る。そこへ清水が懸命に捲り上げてくる。古性が北井をブロックし、清水はその煽りを受けながらも前団に迫る。しかし、伊藤の番手から抜け出した脇本が先頭でゴールを駆け抜けて優勝、古性が続いて2着、清水は3着までだった。
バンクの特徴 333mの小回りバンクだが直線は長い
周長は333m、最大カントは34度41分09秒、見なし直線は46.6m。小回りバンクだが直線が長く、どんな戦法の選手でも力を発揮できるバンクとなっている。
333バンクは先手ライン有利が基本だが、S級上位の選手が集うビッグレースではやはり基本どおりとはいかない。2020年9月に開催された共同通信社杯の決まり手を見てみると、全47レース(ガールズコレクション1個レースを除く)のうち1着は逃げが8回、捲りが19回、差しが19回、マークが1回(1着入線選手が失格のために繰り上がり)、2着は逃げが8回、捲りが4回、差しが20回、マークが15回となっている。他のビッグレースと比べると逃げの連対率が少し多めだが、それでもやはり捲りが有利だ。先手ラインの選手が1着を取った回数も18回にとどまっている。
直線が長いので400バンクの感覚に近いという選手が多いが、それでもやはり333バンクなので自力選手の仕掛けは早い。主導権を狙いにいく選手は赤板からの仕掛けは当たり前で打鐘ではすでにトップスピードに入っているし、捲りになった選手も最終ホームを通過するときにはトップスピードに入っている勢いで仕掛けていかないと前を叩けない。
共同通信社杯の初日10Rの一次予選では徳島勢を連れた太田竜馬が赤板前からスパートしていったが、最終ホーム6番手から仕掛けた郡司浩平があっさり捲り切って岩本俊介とワンツーを決めて上がりタイムは9秒2、11Rでは新山響平が赤板先行に出るが、最終ホーム8番手から仕掛け脇本雄太が鮮やかに捲り切って上がりは9秒1、12Rは吉武信太朗が打鐘先行に出るも一気にカマしてきた松浦悠士が主導権を奪って快調に飛ばしていくが、外を捲り追い込んできた北津留翼が先頭でゴールして上がりは9秒1だ。
伊東温泉のバンクレコードは2014年の共同通信社杯で新田祐大がマークした9秒0だが、2020年の共同通信社杯でもハイスピードバトルが繰り返されたのがよくわかるし、自力型にしても追い込み型にしても赤板からのハイスピードについていけないとまず勝ち目はない。