第73回高松宮記念杯競輪が昨年に続き岸和田競輪場で開催される。例年どおりに3日目の準決勝までは東日本地区と西日本地区に分かれて戦う伝統の東西対抗戦だ。東日本は平原康多率いる関東勢、西日本はライン充実の中四国勢が中心になりそうだが、昨年は伏兵・宿口陽一が初タイトルを獲得しており、今年も東西対抗形式ならでは波乱の決着も十分ありえる。
吉田拓矢が引っ張る関東勢が優勢
初日メインとなるのは東日本と西日本の特別選抜予選で、東日本の特別選抜予選で4着までに入った4名と一次予選5個レースで1着となった5名が2日目の青龍賞へ、西日本も特別選抜予選の4名と一次予選の1着の5名が2日目の白虎賞に勝ち上がる。3日目の準決勝は4個レースで、東日本は青龍賞の9名と二次予選で3着までに入った9名が準決勝2個レースに、西日本も白虎賞の9名と二次予選の9名が準決勝2個レースに振り分けられる。そして東西それぞれの準決勝で2着までに入った8名と3着の1名が決勝進出と、他のGIよりも厳しい勝ち上がりシステムとなっている。
東日本の特別選抜予選は北日本が2名、関東が4名、南関東が3名の組み合わせだ。吉田拓矢が先導役の関東勢がやや優勢だが、深谷知広が主導権争いを挑んでくれば新田祐大の捲り一発も侮れない。
北日本は新田祐大と佐藤慎太郎の2車だが、新田は日本選手権の前検日の指定練習中に落車、右肩鎖関節の脱臼で全治31日と診断されているので評価を下げざるを得ない。それでも佐藤慎太郎が日本選手権では準優勝と健闘しているので、今回も佐藤の突っ込みが軽視できない。決勝では眞杉匠-平原康多の関東コンビを追走の3番手だったが、捲ってきた清水裕友を牽制、さらには脇本雄太追走の古性優作を捌いた上に直線伸びて2着に突っ込んでおり、今回もベテランらしい技と強さを発揮してくれるだろう。
関東4車は吉田拓矢が先導役を努め、諸橋愛は4番手を固めるだろうが、吉田の番手は微妙だ。近況の成績からいえば平原が番手の線もあるが、4着までは青龍賞へ進出して準決へフリーパスとなれば、昨年のグランプリと同様に平原が3番手を回って吉田と宿口陽一を援護する走りもありそうだ。吉田は日本選手権では準決で敗れたが、特別選抜予選とゴールデンレーサー賞は平原とワンツーと好調だ。昨年の高松宮記念杯決勝では宿口とワンツー、特別選抜予選は9番手からの捲り追い込みを決め上がりタイム10秒7をマークしており岸和田バンクとの相性もいい。
南関東は深谷知広-郡司浩平-和田健太郎の並びだろう。郡司は日本選手権では準決で無念の失格となったが、次場所の函館記念は準優勝と調子は悪くなく、4月の地元・川崎記念では松浦悠士と1着同着で今年2度目の記念優勝を達成している。深谷知広も日本選手権は準決で仕掛け切れずに4着と敗れたが、特別選抜予選は逃げ切り、6日目順位決定は7番手から捲って1着を取っている。昨年の高松宮記念杯でも逃げ切りで勝ち星を挙げており、日本選手権での反省を胸に関東勢を叩いての主導権取りが十分にありそうだ。
3人揃った最強ラインの中四国勢が中心
西日本の特別選抜予選は中部が1名、近畿が3名、中四国が3名、九州が2名の組み合わせだ。清水裕友と松浦悠士のコンビを太田竜馬が引っ張る中四国が中心だが、日本選手権で優出した古性優作と東口善朋を野原雅也が引っ張る近畿も強力だ。復調気配の浅井康太や山田庸平目標の井上昌己の突っ込みも侮れない。
浅井康太は5月の日本選手権では準決でタイヤ差の4着と惜敗したが、今年は2月の全日本選抜、3月のウィナーズカップと連続で優出を果たしており、昨年5月の日本選手権以降から長らく続いていた低迷状態をようやく脱した印象だ。日本選手権の初日特別選抜予選では前日の指定練習中に落車して状態を不安視されていたが、5番手からコースを選んでの中割り強襲で1着と浅井らしい巧みな走りを見せている。今回は単騎戦となるだろうが、いつもどおりにラインの切れ目から好位置を奪取して直線勝負に賭けてくるだろう。
近畿は古性優作、野原雅也、東口善朋の3名だが、古性と野原の前後は微妙だ。近況の成績からいえば古性の前回りが妥当な線だが、野原が先導役を買って出る可能性も高い。野原は明らかな調整ミスで日本選手権は一次予選で敗れたが、宮本隼輔、大石剣士を相手に打鐘から突っ張り先行を敢行しており、野原が前ならば地元の古性をぐいぐい引っ張っていくだろう。古性は日本選手権決勝は5着に終わったが準決では脇本雄太の逃げを差し切っており、東口も日本選手権、ウィナーズカップと古性を中心に結束する近畿勢は強力だ。
中四国は松浦悠士、清水裕友、太田竜馬の3名で、ウィナーズカップでは太田を先導役に清水と松浦のワンツーを決めた最強のラインだ。太田は日本選手権は準決で敗れたが、予選は2連勝。日本選抜とウィナーズカップで連続優出と今年は快進撃を続けている。清水も昨年後半は低迷していたが、ウィナーズカップで連覇を達成、日本選手権で優出と復活を果たしている。松浦は日本選手権ではまさかの二次予選敗退となったが、次場所の宇都宮記念では決勝3着と決して調子は悪くないはずで、今回も大田、清水の強力援護を受けて底力を発揮してくれるだろう。
九州は山田庸平と井上昌己の2名だ。井上昌己は日本選手権では一次予選で敗れたが敗者戦ながら3勝を挙げており調子は悪くない。5日目特選では山田の捲りを差してワンツー決着、直前の岸和田FIでも山田の逃げを差してのワンツー決着で優勝しており山田との相性はいい。山田も日本選手権では二次予選で敗れたが敗者戦で2度連がらみしている。4月の岸和田FIの準決では6番から捲って上がり11秒1と好タイムをマークしており岸和田バンクとの相性もよく、今回も九州コンビの一発が侮れない。
眞杉匠が徹底先行でGI連続優出を目指す
初日一次予選は東西各5個レースで、東日本の一次予選で1着となった5名が2日目の青龍賞へ、西日本の一次予選も1着となった5名が2日目の白虎賞へ進出できる。また一次予選で2着から5着までの20名と6位の2名が二次予選に進出できる。昨年の大会では予選組から3名が決勝に進出、そのうちのひとりである宿口陽一が初タイトルを獲得したのだから今年も予選組の頑張りに期待したい。
眞杉匠は3月の名古屋記念では堂々の逃げ切りで記念初優勝を達成したが、活躍が期待された3月のウィナーズカップでは地元戦で気負いすぎたせいか二次予選敗退に終わった。しかし、5月の日本選手権ではいつもどおりの徹底先行を貫いて二次予選が逃げ切り、準決も清水裕友に捲られたが守澤太志の1着に貢献、自身も3着に粘り込んで2度目のGI優出を果たしている。次場所の宇都宮記念決勝もウィナーズカップの雪辱とばかりに関東ラインを連れて逃げて吉田拓矢の優勝に貢献しており、今回も徹底先行でGI連続優出を目指す。
新山響平は準優勝だった昨年の競輪祭の頃と比べると近況はやや物足りない印象で今年はまだビッグレースでの優出がない。しかし、5月の全プロ記念の初日優秀では郡司浩平、古性優作らを相手に逃げての2着で成田和也と北日本ワンツー、2日目のスーパープロピストレーサー賞でも太田竜馬-松浦悠士の中四国コンビ、吉田拓矢-諸橋愛の関東コンビを相手に迷うことなく主導権を取り切り、自身は4着に終わったが守澤太志の優勝に貢献と強い走りを見せている。昨年の高松宮記念杯は準決で敗れたが、もちろん今年も持ち味の先行勝負で優出を狙ってくる。
高松宮記念杯と好相性なのが稲川翔だ。宇都宮が舞台だった14年の大会で脇本雄太の逃げに乗ってGI初優勝を達成、和歌山が舞台の20年の大会、岸和田が舞台の昨年の大会で連続優出を果たしている。昨年後半からやや調子落ちになり今年は特別選抜予選のメンバーから外れたが、4月の武雄記念決勝では村上義弘を連れての突っ張り先行で3着、5月の日本選手権で準決進出、次場所の函館記念では決勝4着と調子を上げてきており、ホームバンクの岸和田で3年連続の決勝進出が期待できるだろう。
北津留翼は日本選手権は二次予選で敗れたが、後方での大量落車の影響を受けたのが敗因で、それがなければ郡司浩平を完全に捲り切る勢いだった。一次予選は町田太我の逃げを捲って1着、敗者戦も2着が2回と好成績で、高速バンクの北津留はやはりひと味違う。昨年の高松宮記念杯も二次予選で敗れたが敗者戦で2勝を挙げ、雨中の対戦となった3日目特選では8番手から捲りきって坂本健太郎とワンツーを決め上がり10秒9の好タイムをマークしている。今回も高速バンクに生まれ変わった岸和田で快速捲りを披露してくれるだろう。
プレイバック 2016年 第67回大会 新田祐大
新田祐大が快速捲りで初優勝
雨中の対決となった決勝戦は浅井康太-吉田敏洋-金子貴志の中部勢が前受け、4番手に新田祐大-山崎芳仁の福島コンビ、6番手に平原康多-諸橋愛の関東コンビ、その後ろに単騎の郡司浩平と村上義弘の並びで周回を重ねる。青板バックから平原がゆっくり上昇を開始し、郡司と村上も続く。平原は赤板手前で誘導を下ろして先頭に立ち、浅井が3番手まで引くが、3番手は郡司も譲らず並走となる。その後ろもインに吉田-金子、アウトに村上、新田で並走状態が続く。平原は後ろペースを落として流していたが、打鐘を迎えても後続からの仕掛けがなく、腹をくくって先行勝負に出る。同時に新田が3番手の外まで追い上げ、最終2角から一気に踏み込んで捲っていく。新田は最終バックで平原を捕らえ、後続をどんどん引き離していく。山崎は踏み遅れ、切り替えた郡司が新田を追うが差を詰めることはできず、新田がそのまま押し切って先頭でゴールイン、郡司が2着、浅井が3着に入る。
上がり10秒台が続出の高速バンク
周長は400m、最大カントは30度56分00秒、見なし直線距離は56.7m。岸和田競輪場は2年近くに渡る大規模改修工事の末に昨年5月にリニューアルオープンしたが、新しく生まれ変わったバンクは以前にも増しての高速バンクになっている。
昨年6月に開催された高松宮記念杯では大会の上がりベストタイムが10秒7で初日に2回出ている。初日4Rの一次予選では5番手2コーナーから10秒9で捲った眞杉匠を差し切った宿口陽一が10秒7をマーク、12Rの特別選抜予選では最終バックで9番手となった吉田拓矢がイエローラインの外側を捲り追い込んで頭に突き抜け10秒7だ。そして初日にベストタイムを出した2人が最終日の決勝戦でワンツーを決め、吉田が11秒1で準優勝、宿口が10秒9でGI初優勝を飾っている。
上がりタイム10秒8も2回出ていて、初日1Rでは原田研太朗が最終3角9番手から大外を捲り追い込んで1着になっており、昨年の大会では後方からの逆転劇が本当に多かった。上がりタイム10秒9は4回出ているが、雨中の対決となった3日目7Rの特選では北津留翼が8番手から捲って坂本健太郎とワンツーを決めている。
ちなみに昨年の大会の決まり手を見てみると、全48レースのうち1着は逃げが4回、捲りが20回、差しが23回、マークが1回(1着入線者失格のための繰り上がり)、2着は逃げが6回、捲りが13回、差しが12回、マークが17回となっている。
逃げ切りが4回あるが、このうち3回は敗者戦の6車立てと8車立てのレースで、9車立てのレースで逃げ切ったのは4日目10Rの特別優秀の深谷知広だけだ。
高速バンクの岸和田は捲りが圧倒的に有利で先行は厳しく、昨年の大会で先手ラインの選手が1着になったレースは13回しかない。昨年優勝した宿口陽一もそうだが、自力型も追い込み型もタテに踏めるスピードタイプの選手でないと勝ち切るのは難しいといっていいだろう。