GI最高峰のレースである第78回日本選手権競輪がいわき平競輪場で開催される。3月のウィナーズカップ決勝でワンツーを決めた脇本雄太と古性優作の近畿コンビが今回も中心になりそうだが、深谷知広に北井佑季と強力先行型が揃う南関東ラインからの郡司浩平の抜け出しも十分だ。ウィナーズカッブ決勝3着と好調維持の清水裕友の一発も侮れず、近況やや元気のない地元北日本勢の巻き返しにも期待したい。
脇本雄太と古性優作の近畿コンビが押し切る
3月のウィナーズカップは脇本雄太と古性優作の近畿コンビがファンの期待どおりにワンツーを決めて幕を閉じたが、ビッグレース初優出で近畿コンビをしっかり牽引した窓場千加頼や同じく初優出を果たした伊藤颯馬など新しい力の台頭が目覚ましかった。もちろんGIIのウィナーズカップとGIの日本選手権ではレースの格が違うので新鋭が簡単に勝ち上がれるほど甘くはないが、現在の競輪界は上位陣がやや安定性を欠いているだけに、今回も優勝争いとは別にニューヒーローの出現に期待してみたい。
脇本雄太はウィナーズカップの決勝では窓場千加頼に前を任せると、巻き返してきた北井佑季との並走に耐え、その上を捲り切った伊藤颯馬を追いかけて差し切りと強い走りを見せた。北井がヨコに器用な選手ではなかったのが幸いしたが、終始インに閉じ込められての苦しい展開からの抜け出しはやはり王者の貫禄だ。2日目の毘沙門天賞は5着だったが、初日特選と準決は豪快な捲りで1着と勝ち上がりも文句なく、2年前に日本選手権を制した好相性のいわき平で完全復活を力強くアピールしてくれるだろう。
古性優作は、ウィナーズカップ決勝は2着だったが、南関東ラインと並走になったときにまずは深谷知広を一発張って退け、最終4角では北井佑季をブロックして止め、空いたインに坂井洋が突っ込んできたのを見るとすかさず戻って蓋をするという活躍ぶりだった。さすがは元BMX日本チャンピオンだけに混戦でのハンドル捌きは絶妙だ。近畿は窓場千加頼だけでなく寺崎浩平もGIで戦える力をつけてきており、古性が彼らをしっかり援護していけば近畿勢の進撃はこの先も止むことなく続いていくだろう。
郡司浩平は4月の川崎記念では地元5連覇がかかっていたが、決勝は逃げる新山響平の3番手を取りながら松本貴治に追い上げられて後退し9着とヨコの捌きに課題を残す一戦となった。準決も北井佑季との連結を外してしまい、自力に転じて1着だったが北井を残すことはできなかった。今後も北井佑季、松井宏佑、深谷知広らとの連係が多くなるが、いかに前を残すかが課題になりそうだ。実際全日本選抜の準決では古性優作に分断されており、難しい判断を迫られたときに郡司がいかに克服していくかに注目していきたい。
深谷知広は2月の全日本選抜では優出を逃したが、3月の松山記念では決勝は9着ながら3連勝の勝ち上がりと好調でウィナーズカップでも優出している。決勝は前を任せた北井佑季が近畿ラインを叩けず、脇本雄太との並走が長引き、深谷は古性優作に張られて後退と混戦時の適応力は相変わらずいまいちの印象だったが、それでも準決ではやはり前を任せた松井宏佑が不発の展開から自力に転じて3着に突っ込んでおり、以前は淡白な走りが多かった深谷だが、今回は展開負けしない強い走りをきっと見せてくれるだろう。
絶好調の清水裕友が今度こそ優勝を掴む
清水裕友は2月の全日本選抜では決勝2着、3月のウィナーズカッブも決勝3着と優勝には手が届かなかったが、レース内容は悪くなく引き続き好調だ。ウィナーズカッブの決勝では近畿ラインと南関東ラインの並走を伊藤颯馬が捲って混戦になったところで間髪入れずに仕掛けていき、最終4コーナーの手前で古性優作に張られた北井佑季に接触していったんは外に膨らむも、そこから再度踏み直しての3着と粘り強い走りを見せた。意識するよりも体が自然に動いている印象で、今回もジャストタイミングの仕掛けで優勝を狙う。
松浦悠士は昨年のKEIRINグランプリ覇者だが、昨年に続きGIやGIIでは今年も苦しい戦いが続いており、全日本選抜では二次予選敗退、ウィナーズカップでは準決で落車負傷となっている。おそらく今回が復帰戦となりそうだが、はたしてどこまでというのが正直なところだろう。それでも3月の玉野記念では取鳥雄吾の逃げを目標に番手捲りで優勝しており、中四国には頼れる自力選手が多いので決して侮れない。盟友の清水裕友、町田太我、取鳥雄吾、犬伏湧也らの援護を受けてグランプリ覇者の意地を見せつけてくれるだろう。
眞杉匠はウィナーズカップの初日特選は脇本雄太-古性優作の近畿コンビに捲られたが逃げ粘って3着、2日目毘沙門天賞では最終4角5番手からインに切り込み、直線では中コースを鋭く伸びて1着と強い走りを見せていたが、残念ながら準決で落車して途中欠場となってしまった。それでも次場所の川崎記念に元気な姿を見せており、準決で6着と敗れているが北井佑季-郡司浩平の地元コンビに真っ向勝負を挑んで壮絶なもがき合いを演じているので状態は問題なさそうで、今回も関東勢を力強く引っ張っていくだろう。
坂井洋は全日本選抜では二次予選で敗れたが、得意の捲りで1着1回、2着2回と好成績を挙げ、ウィナーズカップで優出を果たしている。二次予選は森田優弥の逃げに乗って1着、準決では清水裕友を追っての2着と自力での勝ち上がりではなかったが、決勝は単騎戦から捲りで仕掛けて見せ場をつくっており状態は悪くない。2年前の日本選手権では3日目選抜の敗者戦ながら7番手から捲って上がり10秒5のバンクレコードタイを叩き出しており、眞杉匠とともに関東復活の牽引車となってくれるだろう。
嘉永泰斗が切れ味鋭い捲りでGI制覇へ
山口拳矢は昨年の大会でGI初優出で初優勝の快挙を成し遂げダービー王となったが、近況は元気がない。2月の地元開催の全日本選抜では直前にインフルエンザにかかり準決敗退、3月には扁桃炎にかかりウィナーズカップを欠場している。それでも3月の玉野記念では二次予選と準決を2連勝で突破と脚力は大丈夫そうだが、病気と成績不振のダフルパンチで弱気になっている印象だ。山口の魅力は上位陣相手でも気合い負けしないずぶといレース運びであり、今回こそは連覇を目指しての山口らしい走りを期待したい。
北日本は新田祐大の不在が痛いが、佐藤慎太郎や成田和也らの追い込み勢も調子落ちでかつての勢いはなくなっている。全日本選抜では北日本からの優出は新山響平のみで、ウィナーズカップではゼロだった。それでも新山は相変わらず徹底先行を貫いているが孤軍奮闘の戦いは厳しい。4月の川崎記念でも新山は佐藤慎太郎を連れて逃げ切りで準決を突破と好調だが、決勝もいつもどおりに打鐘から前を叩いて先行するも嘉永泰斗に捲られて7着に終わっており、北日本の追い込み勢にもうひと頑張りを期待したい。
嘉永泰斗はウィナーズカップでは得意の捲りで1着スタートするも二次予選で失格して途中欠場となった。しかし、次場所の川崎記念では一次予選は松岡貴久と熊本ワンツーで2着、二次予選は新山響平の逃げを捲って1着、準決も古性優作との捲り合戦を制して1着と連日絶好調ぶりを披露。決勝も佐藤慎太郎のブロックに耐えながら新山の逃げを捲って優勝している。1月のいわき平記念では決勝は8着に終わったが、準決はやはり新山の逃げを捲って1着とバンクとの相性も悪くなく、悲願のGI制覇を狙う。
伊藤颯馬はウィナーズカップでビッグレース初優出を果たした。これまでのビッグレースでは準決すら乗ったことがなかったのだからまさに快進撃だ。その準決では北井佑季の逃げで4番手の展開となったが、8番手の脇本雄太より先に最終2角から仕掛け、松谷秀幸のブロックに耐えながら3着に突っ込んでいる。決勝も結果は5着だったが、並走となった近畿コンビと南関東ラインを鮮やかに捲り切って場内を大いに沸かせた。今回も格上相手に臆することなく積極的に仕掛けていけば好結果につながっていくだろう。
プレイバック 4車揃った近畿ラインから三谷竜生が連覇を達成
2018年 第72回大会 三谷竜生
浅井康太-香川雄介の即席ラインが前受け、3番手に新田祐大-山中秀将-和田健太郎の北日本と南関東勢のライン、6番手に4人揃った近畿勢が脇本雄太-三谷竜生-村上義弘-村上博幸の並びで周回を重ねる。残り2周の赤板前から脇本が徐々に車間を空けはじめるがすぐには仕掛けず、赤板過ぎの2コーナーから別線の飛びつきは許さないとばかりに一気に踏み込んで近畿4車がきれいに出切ったところで打鐘を迎える。前受けからの飛びつき狙いと思われていた浅井だったが、脇本のスピードに合わせることができず、近畿ラインとの車間が4車身ほど空いてしまい、必死に追いかけるが差は縮まらない。新田も浅井の仕掛けを待ってからの腹積もりだったのか、予想外の展開に仕掛けきれない。それで8番手となった山中が自力で巻き返しを狙うが新田に合わされて後退する。続いて和田がインコースに切り込んでいくが、前は限りなく遠く香川の横まで行くのが精一杯だった。近畿ラインは後続に大きな差をつけたまま最後の直線に入り、近畿4車での優勝争いになる。ややオーバースペースと思われた脇本だが直線に入ってからもう一度加速して粘り込みを狙うが、絶好の展開となった三谷がゴール前で抜け出して史上7人目の日本選手権連覇を達成する。史上最多の5度目の日本選手権制覇を狙っていた村上義弘は脇本を交わしたものの前には届かず4分の3車身差で2着、最後まで力強く粘り込んだ脇本がタイヤ差で3着に入る。
直線の長い400バンクで追い込みが断然有利
周長は400m、見なし直線距離は62.7m、最大カントは32度54分45秒、06年10月にリニューアルオープンしたいわき平はクセのない標準的な400バンクだが、リニューアルに伴い見なし直線距離が旧バンクより10m長くなり、全国の400バンクの中では3番目に長い直線となったため追い込み有利が基本となっている。
22年5月に開催された日本選手権の決まり手を見てみると、全66レース(ガールズ1個レースを除く)のうち1着は逃げが6回、捲りが16回、差しが44回、2着は逃げが6回、捲りが23回、差しが19回、マークが18回となっており差しが圧倒的に優勢だ。逃げはもちろんジャストタイミングで捲った選手もゴールの長い直線で差されるケースが多かった。
ちなみに21年8月に開催されたオールスターでは全63レースのうち先手ラインの選手が1着を取ったレースが32回と先行選手が健闘していたが、22年の大会では全66レースのうち16回しかなかった。最後の直線はただ長いだけでなく、イエローラインのやや外側に伸びるコースがあり、後方から捲り追い込んできた選手に先手ラインが飲み込まれてしまうケースが多い。22年の大会の6日目10Rの順位決定では山口拳矢が浅井康太-稲川翔の中近勢を連れて先行したが、最終2角7番手から捲った深谷知広が伸びるコースを突き抜けて1着でゴールイン、上がりタイムは11秒1だった。
22年の大会のベストタイムはバンクレコードタイの10秒5で、3日目5Rの選抜で坂井洋が最終2角7番手から捲ってマークしている。ただし10秒台の上がりはそれ1回きりで、11秒0が2回、11秒1が3回出ているが、ほとんどのレースは11秒中盤で決まっており、12秒台の上がりも少なくなかった。バンクはクセがなくて走りやすく、カントもそこそこあってスピードに乗りやすいが、やはり直線が長いのでゴール前でタレ気味になってしまうケースが多い。なお決勝は脇本雄太が7番手から捲り11秒1の上がりで優勝している。