15年間にわたり日本競輪選手養成所の所長(2019年4月までは競輪学校校長)を務めてきた瀧澤正光氏。瀧澤氏が退任し、その後任に神山雄一郎氏が2025年度から新所長として就任いたしました。
現役時代にはお互いにグランドスラムを達成するなど、競輪界トップで長く活躍したお2人に、競輪に対する想いや候補生たちへの指導にかける熱い気持ちなどを語っていただきました。
神山雄一郎「選手の時に目標としていた瀧澤さんの跡をついでいけることになり、一生懸命にやってきてよかったと思っています」
-現役時代のお互いの印象は?
瀧澤正光(以下・瀧澤)「もうスーパールーキーでした! 神山君は競輪学校に入る前も強かったし、入ってからも強かったし、卒業してからも強いっていう弱い時がないような選手ですね。完璧な方、まさにレジェンド! 自分は未経験から入っていたので、そういう違いを感じていた印象が強いです」
神山雄一郎(以下・神山)「僕は競輪学校時代から目標とする選手の欄に『瀧澤正光』って書いて、目標として走ってきました。S級になって取手記念で初めて一緒になり、僕が先行して、後ろの増子政明(40期・引退)さんが優勝したんですけども、瀧澤さんは車体故障しているのにすごい勢いで捲ってきて、本当に強くて、なんとか瀧澤さんに勝ちたいと思って向かっていった感じですね」
-今はこの所長として瀧澤さんの跡をついでいかがですか?
神山「選手の時に目標としていた瀧澤さんを、養成所に入ってからも跡をついでいけることは本当に選手として一生懸命にやってきてよかったなと思います」
-初めての入所式の式辞はどうでしたか?
神山「本当に緊張して、『僕の今年の仕事はここ!』って思って(笑)、練習を重ねて臨みました」
瀧澤「乗り込みならぬ、すごい読み込みでした! 講堂から職員室に声が漏れ聞こえるくらい、すごい声を張っていて、何事も一生懸命なんだなって思いました」
-式辞のアドバイスはありましたか?
神山「いっぱいしてもらいました」
瀧澤「拙いアドバイスでしたけど(笑)」
神山「そんなことはないです。とてもためになりました」
瀧澤「選手に例えるなら、デビュー戦で完全優勝でしたね! それくらい素晴らしかったです」
-お2人の時は競輪学校でしたが、どのような気持ちで学校時代を過ごしていたんですか?
瀧澤「僕は同期が100人いて、(成績は)下の方だったので、少しでも上の人たちに喰らいついていこうという感じでした」
神山「実際に自転車競技も好きだったし、競輪も好きだから、少しでも強くなりたいという気持ちがとても強かったので、一生懸命にやっていた感じです」
-神山所長は3kmタイムトライアルの学校記録を30年間も保持していましたね。
神山「でも、抜かれたんで(笑)」
-今年もナショナルチーム中長距離の松田祥位候補生と兒島直樹候補生もいますしね。
神山「そうですね、塗り替えて欲しいですね!」
-塗り替えられるのはどのような心境ですか?
「やっぱり記録を塗り替えられるのは悔しい気持ちはあります。なかなか破られなかったので、このまま一生塗り替えられないんじゃないかと思いましたが(笑)、だけど、そうはいかなかったですね、破られるために記録はあるので」
瀧澤正光「これから第二、第三の神山君をぞくぞくと輩出して欲しいと願っています 」
-瀧澤さんから見て、教えていくことの面白さや難しさはどのようなところでしょうか?
瀧澤「中野浩一顧問にも言われたことがありますが、教える時に、自分ならこうしたのになっていうことはあまり考えず、フラットに教えるということですね。自分ならこうしたのに、っていうのがあるとアドバイスが上手くかみ合わない時があるんですよ。そういう考えをすこし変えるだけで、かなりいい指導につながっていくんじゃないかなと思います。ちょっと口幅ったいですが、でも思い返すとそのように思います」
-神山所長、まだ教えて数日だと思いますが、どうですか?
神山「難しいと感じています。自分の感覚で話しても相手に伝わらないので、一生懸命、自分の中でかみ砕いて教えるようにしています」
-後輩に教えるのとはまた違うのでしょうか?
神山「後輩に教える時は、言い方が悪いですけど適当に言えるじゃないですか。違うよ、こうだよーって言えるけど(笑)、候補生にはしっかり教えていかないといけないので」
瀧澤「同感です!(笑)」
-瀧澤さんは今の若い候補生たちにどのようにアドバイスをしていましたか?
瀧澤「一番伝えていたのは公営競技者の自覚ですね。競技と競輪の一番の違いであり、自分が重く見ていたのはそこだったので。自分には大切なお金がかかっているんだ、責任を背負いながらパフォーマンスするっていうことを口が酸っぱくなるほど言っていました」
-神山所長はどんなことを伝えていきたいですか?
神山「瀧澤さんが言った通り、公営競技者の自覚というのが一番大事だと思うので、瀧澤さんの跡をついでしっかりと候補生たちに指導していきたいです。あとは競輪としての強さ、タイムだけじゃない強さを上手く伝えたられたらという気持ちでいます」
瀧澤「許されるなら、僕も神山所長のもとで候補生になりたいです。早さだけではない、強さの追求というのを僕も神山所長と一緒に歩んでいけるのは幸せだと思います。今回生は幸せだと思いますよ!」
-お二人が人生を掛けてきた競輪の奥深さはどのようなところだと考えていますか?
神山「人と人との繋がりの競輪ですね。なかなか一般の方にはわかりづらい部分ではあるんですけど、ラインがあって、絆があってというところに僕は魅力を感じます。そこに色々なドラマが生まれていく奥深さ、お客さんにはそこまで掘り下げて楽しんでもらいたいですし、そういう強い気持ちの選手を育てていけたらなと思っています。
昨日も候補生たちと一緒に走ったのですが、すごくいい走りをしているのに納得していない人もいるんですよ。『よかったから、頑張れ』って言ったんですけど首をかしげていて、どうしたのか聞いたら『タイムが出てないんです』って言うんですよね。なので僕は『競輪は早い人が勝つんじゃないから、自分が良い感じで走れたことを大事にしろ』って言ったんです。タイムは出たら喜べばいいし、出なくても気にするなっていう感じで言っています」
瀧澤「神山所長なら自分の可能性を最大に引きあげてくれるという空気感がありますよね!」
神山「もともと他の人に対して、練習のこととか厳しく言えないんですよ。厳しく言えないけど褒めるのは得意なので。その子があまりよくなくても、ずっと見ていたらどこかいいところがあるんです! バックの加速した時の腰の位置がいいとか、それをその子が自転車をおりてきたら『よかったよ! バックの腰の位置』って教えてあげるんです。そうするとその子はご飯の時にご機嫌になると思うんですよね。ご機嫌に過ごして、ご機嫌に寝てほしいんですよね。そうやって少しずつ、少しずつ上がっていけばいいなと思うんですよね。養成所生活は短いけど、長いので、慌てずに1つずつやっていけばと思います」
-瀧澤さんはどうでしたか?
瀧澤「私はどちらかというと『こういう風に直したらいいんじゃないか』ってアドバイスすることが多かったですね。あとは自分がやってきたいいことを伝えていたところがあるので、よかれと思ったけど、今の子たちはこれでいいのかなってハテナがつく感じで、神山君の方が現代の若者に合っているなって思います」
-瀧澤教場で鍛えられたという選手がたくさんいると思いますが。
神山「当時の瀧澤教場の子たちが皆強いんです! その練習方法が大事だって僕は思っています」
瀧澤「本当に、いい人に所長をバトンタッチできてよかったです!!」
神山「僕も瀧澤さんが残ってくれて本当に助かっています。ただ所長だって言われて、ここに来て所長の椅子に座っていたって、何をしていいかわからなかったですから。瀧澤さんに色々なことを聞いて、おかげさまで何とか先が見えたというか、先が見えてきました」
瀧澤「今の神山所長の感性をぶつけてほしいんです。人を引き付けるモノがあるんですよ、神山君は! 候補生たちには神山所長を見習ってほしい、唯一無二の存在ですから。やはりトップを目指さないといけないと思うんですよ。だから神山所長を見習って学んでいってほしいですね」
-神山所長は今も自転車に乗って練習していると聞きましたが?
神山「はい、好きなんで(笑)。先生方のバイク誘導でもがいています」
瀧澤「って、朝からバイク誘導練習しているんですよ(笑)、すごいでしょ! だから所長を見習えって言いたいんです。そうやって口だけでなく一緒に走ってくれる、横からのアドバイス、後ろからのアドバイスって候補生にとって大きいと思うんです」
-どのくらいですか?
神山「朝5時50分に起きて、6時半に出て来きました。あんまり早いと先生に申し訳ないので7時から始めて、8時半くらいまでですね。マックスで、千切れるまでって感じでやっています」
瀧澤「こんなこと所長はしないですよね(笑)」
神山「今は練習ができるようになったんですけど、ちょっと前は忙しくって練習できなかった時に、適性の候補生と一緒にもがいたんですけど…千切れたんですよ(笑)。ハロンでその子がいいタイムを出したんですけど千切れたなって、千切れちゃいけないなって思って練習しています」
瀧澤「いやいや、向こうはこれからの人なんだから(笑)って普通は思うだろうけど神山所長は違うんです。いい意味でモチベーションをあげられる原石を身体の中に持っているんです。だから36年間トップでいられたんです」
-ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
瀧澤「15年間の所長職を全うできたのも色々な方々のサポートがあったおかげと本当に感謝しています。次のバトンをレジェンド神山君に引き継いでもらえたことは、私がやってきたことを、口幅ったいですけども、神山所長がそういう生き方もあるんだなと思ってくれた、共鳴してくれたんじゃないか、自分のやってきたことがよかったって証明してくれているんだという自負があります。これからは神山君らしい養成所を築いてほしいです。第2の神山君をぞくぞくと輩出して欲しいと願っています」
神山「36年間の選手生活をファンの皆さんに支えられてきたと思うので、こんどは養成する側にまわって、僕を応援してくれた方々が、僕が教えた候補生たちが走る時に同じように応援してもらえたら、時代の流れというか競輪の流れを感らじれるので、そうしてくれると嬉しいです。現役時代は一生懸命に頑張ってきたつもりなので、その気持ちのまま養成所に入って、候補生たちに教えられたらいいなと思っています。頑張っていきますので見守っていただけたら嬉しいです」