息子と同じ開催で走りたい――森下忠夫、父として、選手として
四国・高知の古豪が、思わぬ形で話題の中心に立った。129期生としてプロデビューを果たした森下龍之介。その父が、今シリーズのメンバー表に名を連ねる森下忠夫その人だ。
高知の選手である父に対し、息子・龍之介は福岡籍でのデビューとなった。思わず「意外では?」と問いかけると、森下はゆっくりと話し始めた。
「実は5度目の受験でようやく合格したんです。高校ではテニスをやっていて、卒業後はまず自分のところで練習させました。でも、なかなか結果が出なくて。最後の1年、自分が吉岡稔真さんと仲が良かったので、預かってもらうことにしたんです」。
吉岡稔真――競輪界に名を刻む大先輩のもとで、龍之介は最後の1年を過ごした。師匠の病気もあった中、不動会の弟子たちが若者を支えた。
「特に中川聖大君には一番お世話になりました。厳しく接してくれたけど、愛情があったから感謝の気持ちしかない。彼は普段、記者さんたちの前ではぶっきらぼうにしていると思うけど、本当は違うからね(笑)。やっぱり、親のところで甘えるより、外で育ててもらった方が強くなる」。
デビュー戦は松山。初戦6着も、2戦目で1着を取り決勝へ進出。決勝は6着に終わった。続く平塚では優出を逃した。まだプロの実戦に慣れる途上だが、5度の試験を乗り越えてつかんだ舞台。その意志の強さは本物だろう。
53歳の父自身も、今シリーズは決して余裕の立場ではない。A級3班は期ごとに厳しい代謝制度があり、その現実が迫る。
「現状、その30人の中に入っているし、あと何人か抜かないといけない。やれるものなら、まだまだやりたいし、息子と一緒の開催で走りたいよ」。
父と息子が同じ開催に出走する日。その光景を実現させるためにも、玉野のバンクで全力を尽くす。
プライベートを尋ねると、温かい家族の顔が見えてきた。
「選手になったのが上の長男。長女もいて、京都の立命館大学法学部の4年生。卒業したら大学院に行きたいようだし、まだまだお金もかかる。検事になるのが夢みたいですよ。女房ですか。地元で広島焼きのお好み焼き屋をやっています。俺も手伝いで焼くことがあるけど、女房に比べると、まだまだ」。
森下夫人が営む高知のお好み焼き店。
店名:和和(なごみ)
広島焼きのお好み焼きが絶品との評判。7月17日からは高知でサマーナイトフェスティバル(GⅡ)も予定されており、旅打ちの際はぜひ立ち寄ってみてはいかがだろうか。
息子の活躍を願いながら、自身も代謝の瀬戸際で踏ん張る53歳。追い込み脚質で長年培った読みとポジション取りは、若手にはない武器。父の背中が、息子への最大のメッセージになる。