小倉競輪祭(G1)での阿部拓真の優勝は、誰もが目を見張った。それもそのはずで、3連単の配当は30万超え “タイトルに最も近い男”と呼ばれた選手は数多いが、実際にその扉をこじ開けられる者は多くない。寬仁親王牌を制した嘉永泰斗にしても、たった一度の好機を逃さない勝負強さがあってこそだ。
そして、阿部拓真を陰で支えてきたのが、師匠・荻原尚人である。
「拓真は高校の後輩で、当時から向上心の塊だった。落車も多いけど、テンション高く走るし、脚が落ちているように見せない。叱ったことなんてないよ。せいぜい、酒でちょっとやらかした時に小言を言ったくらいかな(笑)」
競輪祭の優勝劇を振り返ってもらうと、荻原はあの初手を高く評価した。
「拓真が自分でSを取りに行ったのが大きい。あれでヨシタク(吉田拓矢)も動きやすくなったと思う。後ろ攻めだったら、おそらく一番後方に置かれていたはず。記念は“すぐ獲れる”と本人には言っていたけど、まさかG1が先になるとは思わなかった。完全に読み違えたよ(笑顔)」
現時点で、グランプリの並びはまだ決まっていない。
「決まったら真っ先に報告します、と言ってくれている。近畿が並ぶのか、ワッキーと寺崎浩平の前後はどうなるのか…。まだ誰も決めかねているんじゃないかな」
荻原の門下生は、アマチュアも含めて6人。阿部拓真の他に櫻井正孝、上遠野拓馬、斉藤樂、菊地圭ら、次代を担う若手も揃う。
「期待している選手ばかりだけど、最初に会った頃を思えば、みんな本当によくやっているよ」
本人は自らを奢らない。
「俺なんか記念も獲っていないし、F1を6回獲っただけの普通のS級選手ですよ」
若い頃はイン粘りを武器に強気に勝負していた選手。その度胸とシビアさが、弟子・阿部拓真の中にも、確かに息づいている。
~前橋競輪場から