今のルールだと前からの突っ張り先行が断然有利。ミッドナイトでチャレンジの強い新人が、普通に突っ張れば、ライン決着で堅く決まる。ルールに合わせて、選手は戦法を編み出すが、かつて“カンナ削り”は邪道で、モラルに反する作戦だった。カンナ削りとは、初手の位置取りや、道中の攻防で、外から削る様に位置を取る作戦。ルール違反ではないが、奇麗な行為ではなかった。それが、今では、ポピュラーの作戦として認識される様になっている。
さて、高松宮記念杯の準決の12レース。並びは、人気の松井宏佑、郡司浩平、和田真久留の神奈川勢。関東別線で吉田拓矢、雨谷一樹、阿部力也。上甲信越が小林泰正、末木浩二、諸橋愛。郡司がスタートを決めると松井が前に入るが、ここで諸橋が外から追い上げ、松井と併走。シンプルに松井が突っ張れば、支線の小林ラインにチャンスがないから、3番手の諸橋が自ら位置を取りに行った。レース後の諸橋愛は「本線が自分達の土俵でレースをやったら僕らにはチャンスがない。賛否両論あるけど、勝つには仕方ない走りだと思っている。ルール違反ではないし、あれで、松井君が下げてくれたらと思った。ただ、誘導に差し込んだりしたら、自分が失格になるリスクがあるから、そこは慎重だった。併走だけど、自分はエアーポケット状態だし、松井君の方が苦しかったと思う。
末木に『俺でなく、お前がやるか』と聞いたら、無理ですと言われたので(笑)。泰正が先行して末木が1着だし、ラインとして機能したと思う。俺にもチャンスがあったし、悔しい3着ですよ」。
根性と強い精神力が諸橋愛の魅力。もう、こんな選手は令和の時代には現れないだろう。突っ張りが全盛の中で、これは、突っ張りの対抗策になりそう。体操でも、天体でも、最初に発見した人の名前がつく。諸橋が考案者でもあり、まだ、正式な作戦名はないが、関東のあるマーカーは「MOROHASHI」で、良いのではと笑っていた。岸和田競輪場~