息子と夢を歩む!
検車場でも輪界で常に主役を担ってきた男のオーラは健在だった。レースでもその重厚な走りぶりは変わってなかった。GⅠ9回の優勝を誇るレジェンドは、寒風吹きすさぶ23年2月頭の豊橋FⅠにやってきた。本格的な冬を迎えて5場所連続優出と好調をキープして、表情も柔らかい。2場所前の和歌山GⅢでは準決で現役最強の脇本雄太を相手に先まくりで渡り合い2着と存在感を示していた。
「体調を崩した夏場を乗り越えてしっかり踏めるようになったし、足の状態はいいですよ」と穏やかに話した。2、1、2着。特選、準決、決勝と前方の落車や、別線の2段駆けなどを見極めての冷静な立ち回りが光る3日間、自力を繰り出しての準Vで終えた。
06年から15年の10年間でGⅠタイトルをほしいままにしてグランドスラムにはダービー(日本選手権)を残すのみとなった。毎年話題となったが、43歳となってもあきらめていない。大ギアの先駆者として4回転モンスターの異名で輪界を席巻してきたが、常に強くなるための進化を怠ることはなかった。「現状にとどまらずどうすれば勝てるかを考えてきた経緯があったから今がある。まだ勝ちたいという欲があるからこの年になっても探究心があるし、苦しい練習にも耐えられる」と胸を張る。
長男・歩夢が養成所に合格したのも大きな刺激になっている。中学の時の進路相談でいきなり「自転車をやりたい」と告白された。青天のへきれきだった。「自分の職業だけど自転車はやって欲しくなかったというのが正直な気持ちだった。やれば絶対に自分と比べられるし、ケガや事故がつきもので命を落とすこともある。親心としては口にしたこともなかった。それまで勉強もしていたし、堅い地方の公務員になってくれることを願っていたんですよ」。
ただ息子の決意が揺るがないとみるや東日本大震災で被災した後に移り住んでいた沖縄から、自転車の強豪校の平工業高校入学に合わせて家族で地元・福島に戻ってきた。「自分が決めた道だし、付けた名前の通り夢を歩むことを応援したかった」と全面的なバックアップ態勢を整えた。息子が選手になった時には父も強い自分でいたい。グランドスラマーという夢に向かって息子とともに歩んでいく。