「追い込み宣言」で自分を追い込む
年が明けるにあたり、多くの人が目標を立てるもの。山本は「これからはもう他人の前で戦うことはない」と、自力からの決別を宣言した。「1、2年前から考えてはいました。レースが中途半端になっていたし、はっきり(追い込みと)決めた方がいいと思って」。デビュー9年目だが、今年で38歳になることを思えば、この戦法チェンジも悪いタイミングではないだろう。インラインスケートのスピード種目で国内トップの実績を残したエリートレーサーだったが、「これでは食べていけない」と、マイナースポーツの悲哀を味わったことで競輪界へ。それでも、抜群の身体能力を生かして、日本競輪学校では在校2位。2年でA級を卒業し、逸材ぞろいの同期に負けじと切磋琢磨してきた。だが、一昨年の後期にA級陥落を経験。1期でS級に復帰したものの、それがひとつの転機になったのは間違いない。
今年は元日の取手F1から始動。宣言どおり自力を封印したものの、番組上はまだ脚質が「逃」になっていることもあって、ジカの目標は当然ない。3日間、他地区の3番手を回らされた。最終日にはその3番手を朝倉佳弘(東京)と取り合う流れになり、あっさりさばかれて苦杯をなめた。「まだまだ勉強することばかりです」と臨んだ1月12日からの和歌山記念。初日一次予選は山崎芳仁(福島)ラインの4番手で、4着流れ込み。二次予選は照井拓成(岩手)―菊地圭尚(北海道)に続いて、輪界最強の脇本雄太(福井)に挑んだ。照井の果敢駆けを脇本―稲毛健太(和歌山)が軽々とのみ込む中で、山本は抜け出した菊地をかわして3着に。見事準決勝進出を決めてみせた。「前のおかげだけど、追い込みだとこういうこともあるんですね。自分としては場外ホームランをかっ飛ばしたくらいの気持ちです」と、素直に喜んだ。
勝負の準決勝は青野将大(神奈川)―近藤保(千葉)の3番手。青野は果敢に駆けて見せ場を作ったが、山崎、脇本の波状攻撃を受けて、ラインから決勝進出者を出すことができなかった。「すごいレースでした。このメンバーで先行する青野君もすごいし、山崎さんのまくりもすごかった。その上を行く脇本君は…」。アピールできなかった悔しさもあるが、見える景色が変わった中で思うことは、自分の技術、経験不足だった。「今はまだ(追い込みとして)認められていないと思うが、自分の決めた道なので。違うルートで頂点を目指したい。近いところに経験豊富な先輩もたくさんいますし、アドバイスももらいながら頑張りたい」と、今後も続く試練を受けて立つ構え。
自力では届かなかったG1、G2出場を目指し、背水の陣で臨んでいく。