朝食兼昼食のたまごかけご飯をかっこんで、気合を入れて、猛烈な暑さの屋外に飛び出していく。頑なにスマホで車券を買わないから、どうしても競輪場へ行かなきゃならない。不要不急の外出は控えてくださいと言われても、なにしろ今日はオールスター競輪の最終日。初日のドリームレースで北井佑季と新山響平の、あれだけすごい先行バトルを見せられたら、「10万車券に恋した60歳」は毎日出かけるしかない。まあなるべく陽の当たらないところを歩いてるけどね。そのへんは自分の生き方みたいだなと勝手に苦笑いしている。
いつものように競輪場のラーメン屋に顔を出すと、まだ小学校の低学年らしき男の子がぽつんと一人で座ってる。二つ離れたテーブルには常連のトミさんとタナカ君がいた。そっちに座って、なんとはなしに、少年の方を見ると、車券をテーブルの上に並べて、ブツブツ言っている。
タナカ君が気づいて教えてくれた。外れ車券で一人二役のカード対戦をやってるんですよ。遊び方は二つ。金額の多い少ないか、車券の面白さで勝ち負けを決めるやり方。でも彼は一人遊びだから、後者の方だと思います。ポケモンカードとかと一緒ですよ。金額のやり方はわかるけど、車券の面白さって興味がわくなあ。1点勝負だったり、数字がとにかく一杯あったり、車券の中の数字が作り出す造形美?で勝ち負けが決まるとか。ヘえー、子供の頭の柔らかさに関心させられるな。
そのうち、レースを見るようになっていくんですけど、と付け加えたタナカ君。彼は少年期から父親に競輪場へ連れてこられたからよくわかってる。車券の対決はあるあるらしい。僕も久しぶりにやろうかなと言って、少年のテーブルに移動していった。いつの間にか店主のマサさんがジュースを持ってきて、少年に話しかけてる。
さてと、オールスターの検討でもと思ったら、真向かいのトミさんが話しかけてきた。「高校野球見てる?」。オリンピックの自転車競技じゃないのと言うと、「3年前がそうだったように、ここでまたトップクラスのトップスピードが上がるよね。競輪がどう変わるかは、まだ語れないよ」。とトミさんが真面目な顔で答えた。そう、また話をしよう。
高校野球から強引にひねり出すなら、石毛克幸。千葉県の名門・銚子商業高校の野球部出身で、84期の47歳。基本は追い込みだけど、今もまくりを出す。地味だけど、今年に入ってから連に絡む回数が増えた。今期は16戦して4勝、2着3回。そのうちまくりで2勝を挙げている。ちょうど昼間の前橋に出走していて、決勝を外した石毛は9Rの特選を走る。二人ずつのラインが三つできて、石毛は単騎。すごい先行争いなら、まくっちゃうんじゃない?トミさんと話がまとまった。石毛の頭で2着、3着が全通り。結果?3連単は2万円ついて穴だったけど、石毛の出番はなく5着。トミさんいわく「ここで運を使わなくてよかった。これでオールスターはいただき」。信じていいのか。
やがて車券を買ってきたらしい父親が戻ってきて、マサさんやタナカ君にお礼を言ってる。手をつないで店を出ていく二人。
少年よ、逞しく育てよ!あと20年もしたら、一緒に競輪を語り合おう。うん?俺、生きてるかな。