「泣き」の裏の真実
全国の競輪場に取材網が張り巡らされている今日、選手のコメントは重要なファクター。掘り下げて本音を引き出すか、そこは各メディア、各社の戦いでもある。選手サイドは正直に自分の感覚や状態を伝えてくれるのだが、それが結果に直結しないのは「あるある」の世界。ただ、調子がよくて結果がダメな場合はともかく、その逆もあるから面白い。景気のいい言葉が出てこない=「泣き」。取手競輪場で3月21日から開催されたGⅡ「ウィナーズカップ」。そこで聞かれたグランプリウィナーの古性優作と和田健太郎のコメントも、まさに「泣き」だった。
古性は3月の松山記念で優勝。準決勝は自力でまくり、芦澤大輔の強力ブロックを乗り越え1着で決勝入りを決めながら「全然ダメ。調子はよくない。というより、弱い」と吐き捨てた。5月の平「日本選手権」に向けて体に疲労を蓄積させている時期ではあったが、ここまで辛口の自己評価なのは珍しい。「早く帰って練習したい」とさえ口にした。いや、昨年7月の福井記念でも似たようなことがあった。勝ち上がっていても「感覚がよくない。走り方を忘れている」。ただ、福井も松山も結果はV。とりわけ松山では、強力先行の北井佑季の番手に追い上げ、ヨコを駆使して勝ち切った。まさに奥の手。「昔はそれしかできなかったから。今は自力も付いて、さばきにも余裕がある」と、攻め幅の広さで勢いある新鋭を蹴散らした。
一方の和田。昨年10月の弥彦「寬仁親王牌」では3連勝の快進撃で初タイトルを射程に捉えたが、結果は落車(携入9着)。落車後、一時的に記憶が飛んで「ゴールしたのを覚えていない。気が付いたら医務室にいた」ほどのダメージを負った。その時をピークとすれば、半年以上たった今もそこまで回復していないと言う。毎回「本当によくはない」とコメントしつつ、昨年末には伊東記念を制覇、2月の小松島でも優勝と、結果は出ているのだが、納得した状態で走れてはいない。
迎えた「ウィナーズカップ」。初日特選に登場した古性は「前走の松山記念よりはいいと思うが、走ってみないと。感触と着は比例しない」とのコメント。それでも終わってみれば、2、3、2、2着の準V。スタートを取り、最終3コーナーではまくった清水裕友を弾き飛ばし、勝った脇本雄太を好アシスト。「悪くないかなと思ったが、VTRを見たらまだまだだった」と冷静に分析する。和田は初日から苦戦し、「3走お帰り」の危機もあったが、3日目に1着を取って気を吐いた。しかし「ずっと悪い状態の中で走ってきて、今回は特にひどい。スランプに近い」とまで言い放った。互いにいい手応えのない戦いだった。
では、車券を買う側が信じるのは何なのか。2人とも必ず「調子がよくない中で、できることをやっていく」と付け加えていたのを見逃してはならない。多少の出来落ちがあっても、底力が違うと言えばそれまでだが、現状の最善を尽くすということは、レースを諦めないということ。その姿勢は、選手自身にとっても次につながるもののはず。スランプだった和田は「ウィナーズカップ」直後の和歌山でVをさらった(前回より少しはマシだった、とのこと)。古性も川崎記念で好立ち回りを見せて決勝3着と、さすがの存在感をアピール。大目標の「日本選手権」では、しっかり仕上がった雄姿を見せてくれるだろう。