第39回全日本選抜競輪が岐阜競輪場で開催される。年末のグランプリで涙の初優勝を飾った松浦悠士と清水裕友の中国コンビを中心に推すが、昨年覇者の古性優作と脇本雄太の近畿コンビはやはり強力だ。地元戦に意気上がる山口拳矢やグランプリで準優勝と健闘した深谷知広の一発も十分で、S級S班から陥落した新田祐大、平原康多、郡司浩平らの巻き返しにも注目が集まる。
落車禍を乗り越えて輝きを取り戻す
昨年の競輪界は上位陣が落車禍に見舞われて不振に陥り、グランプリ2022を制して最強の名をほしいままにしていた脇本雄太が3か月の欠場を余儀なくされ、新田祐大を始めとする4人がS級S班から陥落と波乱続きの1年だった。その一方で古性優作が年間GI3勝の偉業を達成したが、山口拳矢と眞杉匠がGI初優勝を飾り世代交代がまた一歩進んだ。夏が終わって太田海也と中野慎詞のナショナルチームの2人が競輪に復帰してくれば世代交代がますます加速すると予想されるが、ベテラン勢がこのまま世代交代の波に飲み込まれてしまうのか、波に抗って巻き返すことができるのか、今後の競輪界を占うためにも今年最初のGIとなる今大会は決して見逃せない4日間となるだろう。
松浦悠士は昨年はGIIを2度優勝しているが落車に悩まされて成績が安定せず、GIでの優出は6月の高松宮記念杯と11月の競輪祭のみに終わった。それでも選考順位5位でグランプリ出場を果たし、直前の別府記念でまたもや落車して体調面が懸念されていたが、レースでは脚を溜めるだけ溜め、最後は深谷知広の捲りを差し切って念願の初制覇を達成した。表彰式では涙を流していたが、苦闘の1年間を乗り切った松浦はさらなる強さを身に着けたはずで、今回もグランプリ覇者の名に恥じない走りを見せてくれるだろう。
清水裕友は昨年はS級S班から陥落したが、見事に1年でカムバックを果たした。しかし、5月の日本選手権決勝は番手絶好の展開になりながらも2着、8月のオールスター決勝では関東ラインの分断にいくが競り合いに脚を使いすぎて4着、年末のグランプリでは深谷知広の仕掛けをアテにしすぎて自身は仕掛けきれずに9着と反省点の多い1年となった。それでも年明けの大宮記念では埼玉勢5車の鉄壁ラインを粉砕して優勝、続く川崎記念も南関東ライン5車を分断にいって準優勝しており、今回も強気の攻めを期待したい。
山口拳矢は昨年の日本選手権でGI初優出を果たし、決勝では最終4角4番手から中バンクを鋭く伸びてGI初制覇を飾った。しかし、その後は山口も落車の影響で調子を落としてしまい、初出場のグランプリでも仕掛けきれずに5着に終わった。それでもS級S班として初めて迎えるGIが地元戦となれば話は別だ。21年に岐阜で開催された共同通信社杯では二次予選Bと準決で10秒台の上がりタイムを叩き出し、決勝も捲ってビッグレース初優勝を達成しており、相性抜群のバンクで再び頂点を目指す。
古性優作が脇本雄太とのタッグで3連覇を狙う
古性優作は昨年は2月の全日本選抜、6月の高松宮記念杯、10月の寬仁親王牌を優勝して年間GI3勝の偉業を達成したが、11月の競輪祭は準決を敗退、年末のグランプリでは逃げる脇本雄太の番手で必勝パターンかと思われたが、捲りで迫る深谷知広をタイミングが合わなくて止めることができず4着に終わった。それでも一昨年の全日本選抜では太田竜馬-松浦悠士の2段駆けを差し切って優勝、昨年は脇本雄太の逃げに乗り新田祐大のイン粘りを凌いで優勝と連覇中で、復調してきた脇本との最強タッグで3連覇を目指す。
脇本雄太は8月の落車の影響で長期欠場を余儀なくされ、復帰戦となった11月の四日市記念決勝では8番手からの捲り不発に終わり、次場所の競輪祭決勝も8番手から仕掛けきれずに8着と残念な結果に終わった。それでもグランプリでは打鐘からスパートし、新山響平とのもがき合いを制して主導権を取りきっている。結果はやはり8着だったが、グランプリという大舞台で持てる力をすべて出し切った走りは脚力的にも精神的にも合格点と言っていいほど素晴らしく、今回こそは完全復活の走りを期待したい。
平成の怪物・深谷知広がついに蘇った。9月の共同通信社杯決勝では新山響平に叩かれて4車身ほど離れた3番手となったが、直線一気に追い込み逆に新山に3車身の差をつけて9年ぶりのビッグレース制覇を達成、競輪祭で優出を果たし6年ぶりのグランプリ出場を決めている。グランプリでも最終2角から発進して逃げる脇本雄太を捕らえ、残念ながら松浦悠士に交わされて2着だったが、全盛期を彷彿とさせるスピードに興奮を押さえきれなかったファンが多いはずで、今回は9年半ぶりのGI制覇が十分に期待できるだろう。
郡司浩平は昨年は落車などの影響により調子が上がらず、GIでの優出は6月の高松宮記念杯のみとなって4年間守り続けてきたS級S班から陥落した。それでも11月の競輪祭では準決で敗れたものの1着1回、2着2回と復調気配が見えていた。そして年明けの岸和田FIでは当然のように完全優勝を達成、次場所の川崎記念では初日特選は2着だったが、残り3走は3連勝で地元記念4連覇を飾っている。深谷知広や北井佑季らの強力な援護を受けての勝利であり、今回も南関東の頼もしい仲間たちとともに復活の走りを目指す。
眞杉匠が関東ラインを連れて積極的に仕掛ける
眞杉匠は8月のオールスターで吉田拓矢の逃げに乗ってGI初優勝を達成、11月の競輪祭では単騎戦だったが5番手の好位置が取れ、南関東を粉砕して2度目のGI優勝を飾った。年末のグランプリでは同じく単騎戦だったが、勝負どころで8番手となってしまい、下がってきた清水裕友をどかすのに脚を使わされてしまい3着に終わっている。年明けには練習中に負傷して状態面にやや不安があるが、それだけに今回は関東ラインを引き連れての駆け引きなしの積極的な仕掛けを心掛けてくるだろう。
平原康多は昨年は相次ぐ落車の影響で低迷し、10年間堅持してきたS級S班から陥落、今年は復活を目指す年となった。しかし、1月の大宮記念決勝では地元の埼玉勢が5人と盤石の構えだったが、清水裕友の捲りに粉砕され平原は無念の2着に終わった。それでも初日特選と準決で深谷知広をマークとこれまでは考えられなかったラインを組み、準決では深谷の逃げに乗って中田健太と埼玉ワンツーと勝利への並々ならぬ執念を見せており、今回もこれまでとは一味違った闘志あふれる走りで巻き返しを狙ってくるだろう。
新山響平は昨年は初のS級S班となっても徹底先行のスタイルは変えず、優勝こそなかったもののGIの2大会とGIIの2大会で優出している。グランプリでは前受けから先行態勢に入るも脇本雄太が叩いてきたときに突っ張るか引くかで迷いが生じ、佐藤慎太郎に3番手に入れてもらったときには余力が残っておらず6着に終わった。今回も若手機動力型との対戦で難しい選択を迫られるレースがあるかもしれないが、S級S班の誇りと己の力を信じてファンの期待に応える走りをきっと見せてくれるだろう。
北津留翼は昨年の競輪祭で優出、決勝は5着に終わったが一次予選1は逃げ切り、二次予選Bも逃げ粘りの2着で園田匠とワンツーと地元戦ならではの気合い満点の走りを見せた。次場所の別府記念では準決で惜しくも4着と敗れたが得意の捲りで2勝をマーク、そして年明けの大宮記念では優出と好調だ。決勝は3着だったが、初日特選と二次予選はいつも通りの後方待機からの大捲りで2連勝、準決は早めのカマシで手堅い勝ち上がりを見せており、今回も得意の捲りでスピードを見せつけてくれるだろう。
プレイバック 2019年 第34回大会 中川誠一郎
単騎の中川誠一郎が逃げ切りで2度目のGI制覇
吉澤純平-武田豊樹の茨城コンビに佐藤慎太郎が続くラインが前受け、4番手に単騎の中川誠一郎、5番手に松浦悠士-香川雄介-小倉竜二の中四国トリオ、その後ろに単騎の和田真久留と吉田敏洋が続く並びで周回を重ねる。青板周回の2センターから松浦が上昇して赤板で誘導員の後ろに入り、吉澤はゆっくり下がっていく。和田も中四国ラインに続くが、最後尾にいた吉田は途中で止まらず、赤板1コーナーで誘導員を下ろして先頭に立つ。一方の中川はいったんは踏み上げる素振りを見せるが、結局は最後尾へ下がる。打鐘前の2コーナーから和田が踏み上げて先頭に立つが、和田を追ってきた吉澤がさらに叩いて先頭に立ったところで打鐘を迎える。押さえられた吉田は後退、和田は4番手まで下がり、松浦が5番手となるが、そこへ中川が4番手の外まで追い上げてくる。吉澤は最終ホーム手前から腰を上げて先行態勢に入るが、4番手で和田との並走を嫌った中川がカマシを打ち、最終1コーナーで吉澤を捕らえて先頭に立つ。そのまま中川は快調に逃げ、吉澤が懸命に追いかけるが差は縮まらない。6番手となった松浦がバック過ぎから捲りにいくが車が伸びない。5番手にいた和田も仕掛けられず、後続の猛追を振り切った中川が圧巻の逃げ切りで2度目のGI制覇を達成した。4コーナー手前から茨城コンビの内を突いた佐藤が最後の直線で中川と吉澤の中を割るも2分の1輪差で2着まで。吉澤が3着に入る。
バンクの特徴
最後の直線では中バンクがよく伸びる
周長は400m、最大カントは32度15分07秒、見なし直線距離は59.3m。400バンクとしては直線が長くカントもきつめだが、走路はこれといったクセがなく、どんな戦法の選手でも存分に力を発揮できるバンクとなっている。
年間を通してバック追い風、ホーム向かい風の日が多く、風のある日は逃げが有利となるのでタイミングよく仕掛けられれば簡単には捲られない。ただしホーム側のスタンドの影響で1日のうちでも風向きが複雑に変わることがあり、風向きを計算に入れて仕掛ける必要がある。
しかし、21年9月に開催された共同通信社杯では初日こそは雨だったが、2日目からは天気も回復し、4日間を通して風もほぼ無風というベストコンデションだったおかげで好タイムが続出していた。
大会のベストタイムはバンクレコードタイの10秒7で、2日目8Rの二次予選Bで地元の山口拳矢が8番手から捲って叩き出している。山口は3日目10Rの準決でも最終4角5番手からイエローラインのやや内側を追い込んで10秒9をマークしており、4日目11Rの決勝では最終バック7番手から仕掛け、先手ラインの新田祐大のブロックを乗り越え、最後の直線では中バンクを鋭く伸びてビッグレース初優勝を飾っている。
岐阜バンクは大外を捲り追い込むよりも最後の直線で中バンクにコースを取ったほうがよく伸びるしタイムが出やすい。21年の大会では10秒7の上がりタイムが1回、10秒8が1回、10秒9が3回、11秒0が2回出ている。今回は2月の真冬の開催なので好タイムはあまり期待できないかもしれないが、展開で後手に回された選手でも最後の直線でコース取りさえまちがえなければ頭に突き抜けることができるだろう。
ちなみに21年の大会の決まり手を見てみると、全47レースのうち1着は逃げが5回、捲りが16回、差しが27回、2着は逃げが8回、捲りが3回、差しが16回、マークが20回となっている。やはり直線が長くてカントもきつめなので逃げは苦しく、先手ラインの選手が1着を取った回数も全体の3分の1の16回だった。