午後2時過ぎの競輪場。今日は京都向日町競輪の場外発売をしている。このバンクは先行したラインが有利というクセがあって好きだ。
ラーメン屋の昼休みに顔を出した。店のテーブルに座って、店主のマサさんと2人の男性が話している。一人は常連で天然パーマのトミさんだけど、もう一人は初めてみる顔。30歳前後で、実直そうな感じ。
手を挙げる程度のあいさつをして仲間に入れてもらうと、トミさんが彼と知り合ったいきさつを話してくれた。「さっきレースの最後の直線でさ、モニターに向かって、○○って声を出したら、ほぼ同時に彼も同じ選手の名前を叫んだんだよ。顔を見合わせて笑っちゃった」。いい出会いだなあ。
最近引っ越してきて、今日初めて、この競輪場に来たと言う彼。名前はタナカ君。競輪好きの父親と一緒に以前のいわき平競輪場へ行ったのが小学生になる前。競輪を見るのも、外れ車券で遊んでいるのも大好きで、以来、逆に父親にせがんで競輪場通い。競輪に飽きることなく、今も毎日、keirin.jpでほぼ全場全レースをチェックするコアなファン。スマホでネット投票もするけど、競輪場で車券を買う方が何倍も楽しいと言う。若いのに変な奴。
ちなみに中学生のとき、2008年12月にいわき平競輪場で起きた、9人全員失格のレースを現場で見ていたらしい(先頭に立った選手はイエローラインの外を2秒以上走行して失格。あとの8人がこの選手を追わずに敢闘精神欠如で失格)。
場外発売なのに、なぜここに来たの?「千葉の石井貴子さんの応援です。京都までは行けないし、家で一人で見るのはつまらない。オールスターのアルテミス賞は西武園へ見にいきましたけど。あの2着は泣きました」。石井は今年3月、3場所連続の準優勝のあと、小倉で1年ぶりの優勝を決めた。よし復活!となるはずだったが、練習中に落車して、鎖骨、肩甲骨、肋骨を骨折。トミさんが「記事で読んだけど、引退も考えたらしいよ」と。復帰したのは7月末の前橋だった。
石井は2年前の2021年5月にガールズケイリンコレクションで落車して、胸部を大ケガしている。それまで持っていた力の何分の一しか出せないレースが続き、決勝に乗れない開催も経験。それがやっと戻ってきたと思ったら、また突き落とされて…。でも彼女は走ることを選んだ。今回の京都向日町は復帰後初の無傷での決勝進出。
実はタナカ君が石井のファンになったのは、何度も苦境から這い上がる姿を見る以前から。「読みがすごいですよね。○○さんがこうくるだろうから、△△さんはこう動くとか。その上で走っている感じが分かる。ケイリンじゃなくて、競輪なところ」。
こういう若い競輪ファンがいるというのは心強いな。
さあ、と言って、ガールズ決勝の車券を買った4人。先にまくった坂口楓華を石井がまくり上げたときは力が入ったが、結果は優勝が坂口、石井は2着で、3着が田中まい。よし取った、持ってると叫んだのはマサさん、トミさん、俺の3人。肩を落とすタナカ君。それは石井が負けたことによるものなのか、俺たちに裏切られたことによるものなのか。
辛いだろうが青年よ、これが競輪だ。前を向いて歩こう。