果敢に駆けて突破
きゃしゃな体に秘めるパワーはすごい。23年6月8日から京都向日町で行われた4日間のGⅢ戦は持ち味のスプリント力を行かした。3、3、9、4の着順以上に果敢な走りを見せつけた。初日、2日目と得意のカマシ先行で主導権を奪って粘り込んだ。悔やまれるのは格上の太田竜馬を連れて後方から不発に終わった準決勝だったか。「後ろの人に勝ち上がってもらわないといけないレースだった。もっとこんな経験を積んでいかないといけないですね」と悔やんだ。最終日は準決の反省も踏まえて正攻法からの突っ張り先行でレースの主導権は渡さなかった。
自転車の名門・中央大学から養成所へは一発合格。在所中にはすべての規定タイムを更新するゴールデンキャップを獲得。在所成績も上位で21年5月にデビューした。デビュー後のスピード出世は鮮やかだった。それから半年余りの12月には和歌山バンクでS級の舞台に立っていた。「自分でも頑張ったなと思います。友達に誘われて始めた自転車競技で、大学まで続けたけど3回生まで成績もぱっとしなかったんですよ。それが4回生になって急に成績が良くなって…。インカレで3冠が取れるなんて思ってもみなかった。それから競輪選手が進路のひとつになりました」。色白で細身の体。普段は眼鏡姿でとつとつと話す姿はとても強い競輪選手には見えない。しかしレースでは果敢に主導権を奪う気迫のレースで魅せる。そのギャップがいい。22年3月の地元の玉野記念準決勝ではSS班の佐藤慎太郎を連れてワンツーを決めて決勝進出。全国のファンにもアピールした。
これといった趣味はない。憧れの選手もいない。それでも今年3月に結婚を決めてご飯を作ってくれる妻のために頑張る目標もできた。「早くS級のレースを経験できたことは大きいですね。レースの組み立て、大きな流れが2回来るレースでどれだけ二の足を使えるか。課題は山積みだけど、そこをクリアしてGⅠにも出たいですね」。7車立てのレースで強烈なまくりならいつでも出せる。しかし9車立てのグレードレースで通用するほど甘くはないのは自覚している。「だから勝ちにこだわらず積極的に行くことは常に心掛けてます」。淡々と話す言葉とは裏腹に秘めた思いは熱い。